36 長老討伐の報告

 長老討伐の後、私達はゴブリン村落の周辺でゴブリンを掃討。

 形成されていた村落を壊せるだけ壊した。

 そして討伐品を拾い集めて依頼達成となった。


 【ゴブリン長老の杖】。

 ゴブリン長老が所持していた木製の杖。かなりの元素を帯びている。

 等級値480。


 ゴブリン長老の戦利品は持っていた杖だ。

 歴戦のゴブリン呪術師だけが護符から杖を持つように進化した個体が長老らしい。

 長老をこのまま放置しておけば、村という共同体が出来たことで、ゴブリンキングやゴブリンフォートレス、ゴブリンスカウト、ゴブリンソーサラーなどの派生種。

 それらに進化するゴブリンが後を立たなくなるところだったと、イアさんが私に教えてくれた。


「長老が出現したとなったら、もうちょっち皆が危機感持ってくれると良いんだけどね―」


 イアさんがニシシと笑いながら言い、私は長老が出現したと聞いた時には今度は真っ先にパーティーを組んで討伐に出られるようになりたいと夢想した。

 そんな風になれたなら、きっと良い冒険者が集まっている。

 私が盟主となって血盟を打ち立てるのもいいだろう。

 楽しいに違いない。


 ゴブリン長老討伐を終えた私達は、セーフガルドの冒険者ギルドへと向かった。




   ∬




「んじゃセーヌさんよろしく!」

「はい。みなさん、Cランク依頼達成お疲れさまです」

「セーヌさんもね! おつおつー」


 持ち込まれた戦利品を私がギルド受付となって捌く。

 途中、ホウコさんが「長老討伐したんですって?」と来て、杖の鑑定だけは本物かどうかを確かめていった。


「等級値480……こんな杖を持っていたとなれば、

 もう少し放置してれば危ないところだったわね……」

「はい。私もそう思います」


 ホウコさんの言に、私はぶんぶんと首を縦に振って肯定した。

 そうして計算が終わり、


「イアさん。こちら報酬となります。

 ゴブリン長老は等級値の高い杖であることを確認しました。

 なので報酬にその分の色が大分付けてあります」

「んおー感謝感謝! んじゃこれはセーヌさんの分ね!」


 イアさんから取り分を受け取り確認。

 きっちり総報酬の1/4のエイダが入っていた。


「ありがとうございます」


 これだけのエイダがたった1日で手に入るだなんて思わなかった。

 Eランク依頼の野犬や狼討伐ばかりでは何回も行わなければ得られない量だ。

 無論、闘技大会での賞金は別として……だが。


 私は嬉しくて自分の報酬袋を貰って、イアさんに、にこりと笑いかけた。

 すると、イアさんが困ったように顔を曇らせる。


「うーん。やっぱセーヌさん普段Eランク任務をやってるのは勿体ないっしょ。

 せめてDランク任務に手出してみなよー」

「はぁ。ですが、油断は禁物ですので。

 良くパーティを組んでいるリエリーさんがゴブリン討伐をしようと言ってくだされば、

 私も長老討伐とは行かないまでも、狩人の森でゴブリン討伐をするのもやぶさかではなかったのですが……」

「うーん。そっか。ここセーフガルドじゃ冒険者が不足してるもんねー。

 普段一緒に狩る人がそんな感じなら仕方ないかなぁー」


 イアさんは腕組みして考えるしぐさをしながらも納得してくれたようだった。

 それにどちらにせよゴブリンの出現は長老討伐と村落の損壊によって、劇的に減っていくはずだ。狩人の森におけるゴブリン討伐依頼もなりを潜めるだろう。


 それよりも、私は気になっていたことを質問してみることにした。

 即帝領の事だ。


「それよりもつかぬことをお伺いしても?」

「なになにー? なんでも聞いてよセーヌさん」

「即帝領に関してなのですが……」

「うんうん」


 イアさんは嬉しそう頭の後ろで腕を組みながら聞く。

 と、話を聞きつけたのかソラさんとナミアさんがやってきた。


「まずは負傷されたという賢者さんのご加減はいかがでしょうか?」

「あーそれね。それはソラっちに聞いてよ」

「はい。私がご説明差し上げます。

 傷そのものは塞がっていますが、まだ臓器に対するダメージが残っています。

 日々、私のかけたリジェネレートと生命力による自然回復で傷は治っていますが、

 まだまだ完治までは絶対安静が必要な状態です」


 ソラさんが賢者の容態を説明してくれると、ナミアさんが首を横に振って語りだした。


「まったく、あいつは調子に乗りすぎていたんだ。

 盾役の聖騎士である私の先制も待たずに、魔法で敵に先制攻撃を仕掛け続けていたんだ。

 『こちらのほうが早く済みます』などと抜かしてだ。

 そして事もあろうに番人らしきモンスターにまで同じように魔法攻撃を仕掛けた。

 そのモンスターが偶然にも魔法反射と先制攻撃者への執念を持ち合わせていて……。

 とにかく、あの馬鹿は自らの身から出た錆が原因で大ダメージを負ったのだ」

「まぁーまぁナミア。

 ユリアスの馬鹿も反省してるだろうし、ここは私の顔に免じてその辺にしといたげてよ~」


 イアさんがナミアさんの語りを制止するかのようにナミアさんへと抱きつく。

 ナミアさんは「こらイア! やめろと言って……!」と纏わりつくイアさんを引き剥がそうとするが、イアさんは離れる様子を見せない。


 そんな様子に笑いながらソラさんが話を続けてくれた。


「それで、他に何か?」

「はい。鍵を使った新領域の探索と窺っていますが、どんな様子だったのでしょう?」

「それが、それまでの即帝領とは違い。

 かなりの高難易度のダンジョン……というのが私の見識です。

 敵の強さもですが、罠や仕掛けが難解で……。

 ねぇイアさん、ナミアさん?」


 まだじゃれ合っている二人にソラさんが問いかけると、二人揃って「はい」「うんうん~」と肯定の意を返してくれた。


「なるほど、高難易度ダンジョン……」


 私が人差し指を唇に当てて考えていると、イアさんがようやくナミアさんから離れて言った。


「そうだー。

 番人や仕掛けはユリアスがいないと手を出せないかもだけど、

 既に探索済みのところで良ければ今度一緒にどう? セーヌさん」


 イアさんが私に向き直り、またもや不敵な笑みを浮かべながらそう問うた。


「即帝領の探索を私が……!?」


 私が驚いて問い直すと、イアさんは真面目な表情になって続けた。


「うん。あーまぁ無理にとは言わないよ。

 ウチの賢者、ユリアスの奴が治るまでは手が出せねーなと思ってたんだけどさ。

 今日のセーヌさんの活躍見てたら行けっかな―って思っちゃってね」

「そうですね。セーヌさんが居ればソラの守りも万全でしょう。後衛火力としての賢者がいなくともここまでできるとは思っていませんでした」

「はい。私もそう思います。

 今日も鞭の攻撃から即座に返ってきて守って貰いましたし」


 ナミアさんとソラさんが続き、私の働きを称賛してくれる。


 私はこのどうしようもなく魅力的な提案を受けようかどうか迷っていた。

 なんと言っても即帝領の未踏領域の探索依頼である。

 しかも勇者パーティに加わっての攻略。

 私の冒険者魂に火がつかないわけがなかった。

 しかし、私は自衛のために、そして皆の為にある提案をすることにした。


「イアさん。罠や仕掛けが難解だとおっしゃいましたよね?」

「うんうん。言った言った~」

「それでは私に提案があるのですが……リエリーさんを一緒にパーティの後衛に加えてはいかがでしょうか?」


 私は自信満々にリエリーさんをパーティーメンバーに推挙した。

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