35 ゴブリン長老討伐
セーフガルド郊外西にある鬱蒼とした森。
狩人の森と名付けられたそこは、最近西から侵入してきたゴブリンたちが繁殖している。
そうでなければ豊富な実りを餌とする動物たちが多く、
セーフガルド内で狩猟を行う者が頻繁に出入りする格好の狩猟地だ。
また西へ抜けて魔族領方面へ向かう際には必ずといって良いほど通らなければならない為、林道は比較的整備されている。
「この森の鑑定範囲内にゴブリン長老は見受けられないようです……」
馬に乗りながら、右側で同じく馬に跨るイアさんに伝える。
鑑定結果は殆どがゴブリン戦士で、まれに弓士と呪術師が混ざる。
「そっかー。じゃあもうちょい西寄りまで行ってみようか
少し飛ばすよ! ナミアもオッケー?」
「はい。ソラ、落ちないようにしっかり捕まっていてください」
そう言って、私達は森の奥深くへと馬を走らせる。
乗馬は初めてだったが、事前にイアさんに乗り方を教えてもらっている。
普段は賢者が乗っているというその馬は名馬のようで、初心者の私に対しても従順に役割をこなしてくれていた。
名馬で駆ける事十数分。
私の鑑定範囲に長老の反応があった。
「イアさん。長老です!」
「おぉー! セーヌさんの索敵さっすがー」
「凄まじい鑑定範囲ですね……」
「本当に……」
イアさんによる称賛に聖騎士様と聖女様が続いた。
私達は馬を降り、近くの木に手綱をつなぐ。
【ゴブリン長老】。
【ゴブリン族。男性】。
【中級炎魔法A】、【上級草魔法B】、【元素感知B】、【元素操作B】、統率A、etc……。
「相手は中級炎魔法と、上級草魔法を使うようです。
その他に統率Aスキルを持っています」
私がそう伝えると、イアさんが顔を曇らせた。
「統率Aかー。これはちょっち苦戦しそうだね。
陣形はナミアを先頭に私とセーヌさん。
その後ろにソラって配置でいくから、みんなよろしく!」
イアさんの指示に3人が呼応。陣形が構築されていく。
「どうしますか、イア。長老を先に討ち取るのが先決かと考えますが……」
「うーん。それはそうなんだけど、統率A持ちってなると、かなり知能が高い。
だから油断せずに村の周囲のゴブリンを少しずつ減らしてく作戦でいこっ!
セーヌさん。囲まれそうだったら教えてね」
「はい。分かりました」
作戦会議も終わり、聖騎士であるナミアさんが一番近くにいたゴブリン戦士に盾で突っ込む。
そしてゴブリン戦士を強く盾で強打した。
戦士は地面に転がり頭を振ったが、次のタイミングでナミアさんの片手直剣がその喉元を切り裂いた。撒き散らされる緑色の血に、聖騎士ナミアさんの水色の髪が濡れる。
「ウゲェー……」
小さな断末魔をあげて暫くして絶命するゴブリン戦士。
「ナミアっち、首飾りの回収もよろー」
「了解です」
首飾りを回収していると、2匹で村の周囲を巡回していたらしきゴブリン戦士に見つかってしまった。私とイアさんが目線を合わせて頷く。
私は即座に駆け出して、左側のゴブリンを狙う。
イアさんは同様に右側のゴブリンを狙っている。
私が全力の一撃をゴブリン戦士に放つと、ゴブリン戦士は持っていた曲刀で応戦。
しかし私の大剣がそれを打ち砕き、曲刀毎ゴブリン戦士の頭をかち割った。
緑色の血に汚れる私。
人型の魔物を狩るという初めての経験に、私は少し震えている。
イアさんも右側のゴブリンの首を切り飛ばしたようで、頬に緑色の血を受けた。
「おー、セーヌさん。もしかして震えてる?」
「はい……。人型の魔物を殺したのは初めての経験でして……」
「アハハハ。そっかそりゃしょうがない」
そうして何体かのゴブリン達を相手にしていると、ついにゴブリンの村に襲撃が伝わったようだ。先程までのまばらな巡回と違い、4匹で1つのゴブリン小隊がいくつも村の周囲を巡回し始めた。
「光の加護を賜らんことを……!」
ソラさんの詠唱で私達を光元素が覆う。
鬱蒼とした森の中だからだろうか、防御魔法らしきそれはそれほど大きな元素量ではない。
「行きます……!」
ソラさんによる光の防御魔法を受けたナミアさんが、小隊を発見して突撃。
それに私とイアさんが続く。
先程同様にシールドバッシュから攻撃に入るナミアさんが2体のゴブリン戦士を同時に相手取る。背後に控えていたらしきゴブリン弓士が弓を構え私達を狙い、更にゴブリン呪術師が魔法を詠唱。ファイアーボールが襲いくる。
イアさんが炎弾を縦切りで豪快に断ち切ると、私もソラさんを狙って撃たれた矢を撃ち落としながら弓士へと接近。私は横切りで弓士を薙ぎ払った。
「グギャッ……」
私渾身の薙ぎ払いに弓士は胸の付近を真っ二つにされて息絶えた。
私の一撃にイアさんが続き、イアさんは呪術師の胸に剣を突き刺した。
恐らくは心臓付近だ。あれだけ深く剣が食い込んでいてはひとたまりもないだろう。
いくつもの小隊をこれら戦術で撃破してゴブリン村落の中央に進む私達。
ついに私達はゴブリン長老の属する小隊に出くわした。
「キケェキケェー!!」
ゴブリン長老がけたたましく叫ぶと、左右からもう1小隊ずつが接近してくる。
「ナミアは長老を! セーヌさん、左任せた!」
「はい……!」
そう言って、雷元素を纏うとイアさんは神速状態で右側の小隊へと突撃。
私もイアさんに習って風元素を纏って神速状態を発動。
左側の小隊へと急速に接近。
そして思いきり草元素による身体強化と刀身強化をした一撃で小隊の4匹を薙ぎ払った。
「グギャァアアア」
と大きな戦慄きを残し、4体ともが一斉に胴を切り払われる。
そして背後にあった大木をもが、私の強力な斬撃で2本3本と切り倒されていく。
私は自分が任せられた小隊の全滅を確認すると、すぐに長老小隊の元へと向かった。
「ナミアさん!」
駆けつけると、ナミアさんがソラをさんを守りながらゴブリン戦士1体と戦っていた。
弓士と呪術師の攻撃にはソラさんの光の防御魔法が反応している。
そして長老がさらなる攻撃を繰り出さんと、たったいま詠唱を終えたようだ。
草元素が長老の持つ杖からほとばしり、周囲の地面が隆起する。
そうして複数の太い蔓のような鞭が現れた。
それらがナミアさんを襲えばまだしも、鞭の対象はソラさんのようだ!
激しくしなる鞭がソラさんを襲う。
――しかし!
「――やらせはしません!」
神速状態のままソラさんに鞭が到達する寸前。
なんとか間に合った私が鞭を迎撃。
蔓状の鞭を袈裟斬りで断ち切った。
「間に合いました……!」
「ありがとうございますセーヌさん!」
そんな会話をする間にも、ゴブリン長老は未だ複数の草鞭を従えている。
けれど後方から雷鳴が轟いた。
闘技大会で私を襲ったこともある上級雷魔法。
それが残った鞭のすべてを屠ると、同時にイアさんが到着。
振り返りざまに放った斬撃で長老の首を切り飛ばした。
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