33 ギルドでのお昼休み

「おう、セーヌの嬢ちゃん。これ頼むぜ。今日は冒険には行かないのかい?」

「はい。今日は」


 常連の冒険者さんが狩猟依頼の達成を報告してきた。

 ゴブリン討伐だ。

 彼らの身につけていたアクセサリーを提出され、私が依頼通りに30匹の討伐ができているかを確認する。


「ゴブリン呪術師の護符が9つ。ゴブリン戦士の首輪が15。ゴブリン弓士の篭手が6……。

 はい。30匹の討伐を確認させていただきました。さすがですね」

「まぁ俺たちCランク冒険者PTなら当然だな。 

 しかし、近所にゴブリン長老が発生して村を形成し始めたらしいって話だ。

 セーヌの嬢ちゃんも、もしゴブリン討伐に向かうなら気をつけるこったな。

 新人には些か相手が難しいくらいの頭数が長老の元には揃ってるはずだぜ」

「いえ……私はゴブリン討伐はまだまだ……」

「そうかい。殊勝なことだな! 一応Dランクには昇格したんだろう?」

「はい。一応ですが……」

「それなら、ゴブリン1匹だっていい。取り敢えず相手にしてみるんだな」


 私が報酬を用意して手渡すと、常連冒険者さんはそれを受け取り「じゃあな」と言って仲間の元へと去っていった。

 私は討伐依頼収集物のゴブリンアクセサリーを見る。


 【ゴブリン呪術師の護符】

 ゴブリン族の呪術師が持っている護符。魔法を使う際に使われる。

 等級値80。


 等級値80だ。

 草原スライムの分泌液が等級値5なのに対して、

 なんとゴブリンアクセサリーには80もの等級値が付与されている。

 単純に考えれば、倒すのに16倍以上も苦労するということになるだろう。

 とてもではないが安易に敵に回して良い相手ではないはずだ。


 私は地道にEランク推薦討伐対象の狼を相手にしようと誓った。

 獣の動きに慣れてからゴブリンのような人形ひとがたの討伐対象を相手すべきだ。


 そんな事を考えていると、ギルドに設置された大きな仕掛け時計が12時の鐘を報せた。


「セーヌ! お昼ごはん、一緒にどう?」


 同期のヨシノが私の肩を叩く。


「はい。良いですねご一緒させてください」


 今日はお弁当を用意してきていない。

 セーフガルド内でとはいえ、親元を離れ一人暮らしをしている手前、少しでも食費を安くしたいとは思ってはいる。いるが、しかし 私は毎日お弁当を作るのは億劫だと思っている。

 きっと父辺りは「そんなんじゃ良いお嫁さんになれないぞ」と私を囃す。


「どこいこっか?」

「安全亭……はもう飽きましたか?」

「ううん別にいいけど、どうして?」


 私の提案にヨシノが首を傾げる。


「私、安全亭のミネストローネが好物でして……」

「あーそうなんだ? 私はあそこで食べるのと言ったら安全贅沢ハンバーグだからなぁ。

 いいよ。安全亭にしよ! 私もミネストローネが食べてみたいかも!」

「はい。それでは参りましょう」




   ∬




「はいよ。安全亭特製ミネストローネとパンお待ち……、

 セーヌはチーズリゾットだったね?」

「はい」


 ヨシノの注文を持ってきた安全亭の女将さんが私に注文を確認する。

 当のヨシノさんといえば、ミネストローネを前にして涎を垂らすかのようだ。


「お先に召し上がっていてください」

「それじゃ、遠慮なく!」


 そう言ってキャベツがたっぷり入った、安全亭特製ミネストローネを口にするヨシノさん。

 口に入れた途端にスプーンを持つ手が少し震える。


「うーん! おいしい! ここのミネストローネってこんなにおいしかったんだ!」

「はい。知る人ぞ知る定番メニューなんですよ」


 安全亭のミネストローネの材料は、肉、センターキャロット、東方キノコ、グリーンピーマン、薔薇色トマト、紫ナス、そしてセーフキャベツだ。

 これに東方スープと塩、水が注がれじっくりと煮込まれているらしい。

 肝は何種もの東方スープを少量ずつ入れて各種旨味を引き立ているかららしい。


 私はミネストローネ単体でも大好きだが、特に大好きなのは――


「――安全亭特製ミネストローネのチーズリゾットお待ち!」


 ミネストローネをご飯の上にかけその上にチーズを少々。

 そして何分か煮込んで完成するのが、この安全亭特製ミネストローネのチーズリゾットだ。


 私は小さい頃から安全亭に親に連れてきて貰う度、このチーズリゾットを食べていた。

 好物中の好物というわけである。

 一口食べる。トマトの酸味が絶妙に東方スープで彩られ、野菜の旨味や肉の旨味が引き立つ。そして次に現れるのがチーズとそのミネストローネがたっぷり染みたご飯のハーモニー。


「はぁ……相変わらずとてもおいしいです」

「うわぁーセーヌのチーズリゾットも美味しそうだねー」

「はい。とても美味しいですよ。良ければ一口いかがですか?」


 私はこの美味しさを誰かに布教したくなった。


「え? いいの?! じゃあ一口だけ貰うね!」


 そう言って、一口だけ私のチーズリゾットを取ると、ヨシノさんが口へ入れた。


「うっそ……本当にこんな美味しいの……!?

 チーズとご飯入れただけだよね!?」


 ヨシノさんの一言に、私はしてやったりで笑みを作る。


「はい。本当に美味しいです。私の大好物ですから」


 そうして、私は大好物の安全亭特製ミネストローネのチーズリゾットを楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る