32 エアームーンシャーク素材

 エアームーンシャーク革の手甲が出来上がったという報告を受けて、私は次の日の朝、即座に革細工職人ギルドへと向かった。まだ朝早くだと言うのに、ギルドへ着くと私をギルドマスターの女性が出迎えてくれた。


「いやー大変だった大変だった。

 特に鱗を落とす作業が余りにも大変でね……。

 そのあとは凹凸の多い革をどう満遍なく染色するかに戸惑ったし、

 良い勉強をさせてもらったよ。鮫革……いいね……!」

「それは……お疲れさまでした。それで費用はおいくらでしょうか?」

「それはね、要らないよ!

 こんな希少な素材で勉強させてもらったんだ……。

 それとこれ、言われてた通りに鱗は取っておいたよ。

 武器防具何にでも加工できそうだけど、一体何に使うんだい?」

「鱗は錬金術師の知り合いにお譲りする予定なんです。

 それから……無料では申し訳がありません。

 革細工製の手甲の標準相場だけでも出させてください」


 そう言うと、女ギルドマスターは「別にいいんだけどねぇ」と言いながらも標準的な革製手甲の作業代金を提示してくれたので、私はそれをきっちりと支払った。


「で、どうだい? 出来の方は」


 言われ、私は鑑定を走らせた。


 【エアームーンシャーク革の手甲】

 エアームーンシャークの皮革で作られた手甲。

 風元素と水元素の恩恵を強く受けられる。

 等級値4200。


 等級値4200という値に驚く。

 しかし元々の素材の時点で国宝級とも言われる1500を有に超えていたのだ。

 凄まじく良い手甲を作ってもらえた。


 その山葵わさび色の手甲は腕にはめると、革にしてはとても軽い。

 そしてとてつもなく丈夫そうだった。

 余りにもしっくりと来る装着感だったため、口元が緩んでしまった。


「はい。とってもよく出来ていますね」

「だろう、だろう! この私渾身の自信作さ!

 で、余った革はどうするんだい?」

「それは……今の所使い道はないので、一旦引き取ります」

「了解! ちゃんと除脂などの加工は全部にしてあるよ。

 もしそれで作る製品が決まったら、また是非ウチで頼むよ!!」

「はい。ありがとうございました」


 私の笑顔に釣られたからか満面の笑顔の女ギルドマスターから手甲と残った革を受け取る。

 そして鱗が入った袋も受け取り、私は皮革職人ギルドを後にした。


 【エアームーンシャークの皮革】

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの加工された皮革。

 等級値3200。


【エアームーンシャークの鱗】

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの鱗。

 等級値1500。




   ∬




「おはようございます」

「あら、セーヌさんおはようございます。今日はどうしたのですか?」


 朝早くに工房を訪ねると、ミサオさんがいつものように出迎えてくれた。

 今日はまだエルミナーゼさんが来ていないらしく、背後の工房には誰の気配もない。


「ミサオさんにこれをお譲りしようと思いまして」


 革袋を手渡す。すると、中を確認したミサオさんが驚くように言った。


「エアムーンシャークの鱗ですか!? それもこんなにたくさん……!

 良いのですかセーヌさん?」


 ミサオさんは両手で口を覆い、それから私の顔をまじまじと見つめた。


「はい。私ではどちらにせよ使い道が思いつきません。

 ミサオさんは背びれしか皮革部分を貰っていなかったようなので鱗は足りないのでは、と」

「えぇ。それはもう、鱗はあればあるだけ有り難いのですが……」

「では良かったです。受け取ってください」

「それでは有り難く頂戴しますね。

 これで作れる錬金アイテムができた際には必ずお譲りしますから」

「はい。楽しみにしています。

 それでは、私は今日もギルドで仕事がありますので、失礼します」


 そう言って、私はミサオさんの工房を後にした。そうして一度自宅へ。

 鮫革の手甲と残った革は大剣などと一緒に保管。


 良い手甲が出来たことを本当に嬉しく思う。

 特に風元素と水元素の恩恵を強く受けられるというのが気に入っている。

 私は主に神速で風元素による強化を行うからきっと有用に働くだろう。

 さぁ、今日も1日ギルド業務を頑張ろう!

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