28 祝勝会とギルドへの報告

 エアームーンシャーク討伐に成功したという報せは、瞬く間にサウスホーヘンの港町周囲に知れ渡った。

 夕暮れのサウスホーヘンの浜辺。漁業関係者を中心としてお礼の言葉を述べられる中、私達は鮫料理を味わわんとしていた。


「さぁ食ってくれ! 海宴亭特別メニュー。

 エアームーンシャークの唐揚げだ!!」


 海宴亭の主人がそう言い、店員をしていた猫人族の女の子が私達へと料理を運んでくる。


「刺身も出来たぜ! 嬢ちゃん達!」


 釣り人の男が豪快に刺身にした赤身と白身を大皿に盛り付けてやってきた。


「まさか本当に討伐しちまうとはなぁ……。

 婆さんの紹介で俺のところの来た時はまさかとは思ったが」

「私の目に狂いはなかったのぅ」

「違いない違いない!」


 釣り人の男と最初に話したお婆さん。そして漁業関係者のみんなが笑い合う。


「セーヌさん! 私もう我慢しきれません!」

「どうぞ。ミサオさん。ミサオさんが釣り当てたエアームーンシャークじゃないですか」

「そうですミサオ。遠慮することはありませんよ。

 倒したのは確かに私達二人ですが、ミサオの釣り竿にかかった獲物ですから」


 私とエルミナーゼさんの二人がそう言うと、ミサオさんはまず唐揚げを取る。

 私とエルミナーゼさんはお刺身を頂くことにした。


「んんんんんー! おいしいですご主人!

 この唐揚げ最高です!

 サクッとした衣に、中身のトロッとジューシーな鮫肉が堪りません!」

「はぁ……とてもおいしいですこの白身。

 もしやゴールドコインタニィに匹敵するのでは?」

「確かに……これはなんとも……美味ですね」


 宴会の主役である私達二人が鮫料理を楽しむと、他の人達も続々と料理に手を出し始めた。

 中には酒を持ち込んできた漁師たちがいたようで、大宴会へと発展していく。


 ひとしきり料理を楽しんだ私達3人。

 明日は馬車に乗って帰るのだから、お酒を頂くわけにはいかず。

 浜辺の酒宴会と化した祝勝会を後にして宿屋へと戻った。







 翌日。宿で目覚めた私達は、宿屋の女主人から唐突に言付けを貰った。


『ギルドへ来るように』


 サウスホーヘン冒険者ギルドマスターのアシェルーヤさんが呼んでいる。

 私達は「はて? なにか用でもあるのでしょうか」と疑問を浮かべたが、それに答えられる人は3人の中にはいなかった。


 冒険者ギルドへ向かうと、幼気な容貌の受付嬢が私達の顔を見た途端に奥へと引っ込んで行く。そして、アシェルーヤを連れ立って戻ってきた。


「あら貴方達、よく来てくれたわね」

「はい。あのどのようなご用件でしょうか?」


 私が心配そうに尋ねると、アシェルーヤは噴き出すように笑う。


「なにって、貴方達、港のエアームーンシャークを討伐したっていうじゃない?」


 その言葉に私達3人は不思議そうに顔を見合わせた。


「確かギルドに依頼は出ていなかったかと……?」

「えぇ……防衛隊の人達が見栄を張って拒んでいたとか……」


 エルミナーゼさんとミサオさんの二人がそう言うと、アシェルーヤさんが腕を組む。


「だから私から特別に依頼として認めて上げようって話よ。

 それに……これを預かってるわ」


 アシェルーヤさんがそう言うと、横に控えていた幼い容貌の受付嬢が大量の100エイダ金貨の入った袋を取り出してきた。


「これを貴方達にと」

「えぇ……なんですかこの凄い額は……。

 セーヌさんが一昨日貰った闘技大会の賞金に匹敵する額じゃないですか」


 ミサオさんが驚きの表情を見せる。


「エアームーンシャークの素材をギルドが買い取ったのよ。

 宴会が酒宴になった後、貴方達がこっそりと抜け出して行ってしまうものだから、

 これら素材の処分先に皆困ったそうよ。それでギルドに持ち込まれたってわけ」

「ですが……私は素材の一番良い部分を頂いているのですが……」


 ミサオさんが心配そうに言う。


 確かに、ミサオさんは料理を作り始める前にエアームーンシャークからいくつかの素材を採集していた。錬金術に使うからと言っていたはずだ。

 私も興味本位で鑑定させて貰ったからよく覚えている。


 【エアームーンシャークの前歯】。

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの前歯。

 その鋭い切っ先はオリハルコンすら貫きかねない。

 等級値2500。


 【エアームーンシャークの奥歯】。

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの奥歯。

 その硬さはオリハルコンの槍さえ防ぎかねない。

 等級値2000。


 【エアームーンシャークの背びれ】。

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの背びれ。

 空を泳ぐのに必要と言われるエアームーンシャークの背びれ。

 等級値3000。


 これらどう考えても等級値的に国宝級の素材をミサオさんが採集。

 ミサオさんが釣った獲物だからと所有権もその場で認められている。


「それはそうらしいけど、まだ鮫の革や尾びれなんかが残っていたでしょう?

 腕のいい漁師が皮を剥いたらしくて大きめで傷もないし、皮革職人に手渡したらびっくりするくらいの高値を取られること請け合いよ。

 それに尾びれだって国宝級の品じゃない。どうして残しておいたのかしら?」

「それは……私は尾びれを美味しいフカヒレにするだけの料理スキルは持ち合わせていないので、海宴亭のご主人にでもお譲りするつもりで……。革に関しても私は専門外なので……」


 ミサオさんがそう弁明すると、


「はぁ……」とアシェルーヤさんが呆れた表情を向けてくる。


「いいからこれは貰っておきなさいな。

 尾びれは確かに海宴亭のご主人が買い取ってくれたわ。これはその分よ。

 皮革についてもこちらが良い職人に手渡せば、この半分くらいの額は手に入るはずよ。

 どうする?」


 そう問われ、私は布製の手甲を新調しようと思っていた事を思い出した。


「差し支えなければですがミサオさん。

 こちらの皮革素材、私が買い取らせて貰っても構いませんか?」

「え? それは構いませんがセーヌさん。お代は頂けませんよ。

 討伐してくれたのはエルミナーゼとセーヌさんの二人ではないですか。

 ね? エルミナーゼもそれでいいでしょう?」

「はい。私は全く構いません。セーヌさんに自由に使ってもらって……」


 そう二人が言うので、エアームーンシャークの皮革素材は全て私が貰い受けることになった。


 【エアームーンシャークの皮革】。

 中央海の何処かに生息するという希少な鮫エアームーンシャークの皮革。

 等級値2500。


 まだ革に本格的に加工されていないので生臭さが残っていた。

 だから布に包んで匂いを軽減してもらうことにした。

 これならば馬車に乗せても大丈夫だろう。


 帰り際、私はサウスホーヘンの冒険者ギルドで水晶に冒険者カードを当てた。


 【初級釣り師S】。

 釣り師として第一歩を踏み出した証。

 初級釣りを行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【中級釣り師S】。

 中級釣り師として認められた証。

 中級釣りを行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【上級釣り師S】。

 上級釣り師として認められた証。

 上級釣りを行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【特級釣り師A】。

 特級釣り師として認められた証。

 特級釣りを行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 なんと特級Aまでの釣り師スキルを獲得していた。

 惜しむらくはきっと教えてくれた釣り師の男性が上級までのスキル持ちだったことだろう。

 特級は惜しくもA止まりとなってしまっているのが残念だ。

 エアームーンシャークを直接釣り当てたわけでなくとも、特級釣り師Aスキルが習得できたのはとても運が良かったのではないだろうか。


 【大物狙いS】。

 大物の釣果を狙っている時に釣りが上手くいくようになる。


 これはエアームーンシャーク釣りを始めたことで習得できたのだろう。

 今後、もし釣りをするときには有用なスキルに違いない。


 【初級主釣り師S】。

 主釣りの第一歩を踏み出した証。

 主の情報が少なくとも、直観で主の気配や使用すべき餌が分かるようになる。


 主釣り……というのが釣り師スキルとは別にあるらしい。

 今度、セーフガルド付近で釣りができそうな場所で試してみよう。


 【魔獣討伐S】。

 魔獣討伐をする際に大幅に各種戦闘スキルに技量補正がかかる。


 エアームーンシャークは大物の主でありながらにして、魔獣だったのだろう。

 主に先陣を切っていたエルミナーゼさんに師事していたという形だったからかSスキルが獲得できている。わたしはこのスキルを得てぐっとガッツポーズをした。

 今度は一人で魔獣討伐依頼を受けてみたいと思う。


 休日を楽しむはずが思わぬスキルがたくさん得られた。

 また明日からも気楽に気負わず、自分なりに一生懸命に頑張っていこう!!

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