27 エアームーンシャーク

「あんた達か……あの鮫を倒してくれるって冒険者は」


男は私達を見て口元の髭を撫でる。


「はい」

「そうかい、それじゃあまずは釣り竿を渡そう。

 3人共釣りは初めてかい?」


 男が私達3人に釣り竿を渡しながら尋ねてきた。

 しかし、エアームーンシャークを討伐する為に、まさか釣りをする必要性があるなんて思いもよらなかった。


「はい。私とこちらのミサオさんの二人が初めてです。

 エルミナーゼさんは川釣りの経験がお有りだとか……」

「ほぉ……じゃあそっちのエルフの姉さんはともかく、二人には俺が釣りのやり方を教えよう。

 なーに、ここサウスホーヘンじゃ釣りの名手で有名なんだぜ?

 俺も釣りに参加するが、エアームーンシャークが連れたらあとは任せるよ。

 なんなら漁船も一隻出したって良い」


 男はエアームーンシャーク討伐に意欲満々なようで、漁船を出すとまで言ってくれたがそれは断った。灯台付近から地面の上で釣り上げないと、海の中ではエアームーンシャークには勝てそうにないとエルミナーゼさんが判断したからだ。


 私とミサオさんの二人は釣りのやり方を教えてもらうと、餌の鳥肉を付け浜辺から沖方向へ思いきり釣り竿をスイングした。


「釣りの基本はじっくりと待つことだ……痺れを切らさずに、竿先に全神経を集中しな」

「はい。分かりました」


 この調子で行けばきっと上級辺りの釣り人スキルが得られるに違いない。

 私がそんなことを考えていたときだった。

 ミサオさんの釣り竿が突如として跳ねるように撓る。


「やっこさんが来やがったぜ! この辺りに肉食魚はいないからな!」

「え? 私……どうすればいいんでしょう!?」

「とりあえず竿を立てろ嬢ちゃん。絶対に糸を緩ませるんじゃねぇぞ!!」


 釣り師の男にそう言われて竿を必死に立てるミサオさん。

 しかし、じりじりとその体全体を釣り竿ごと海へと引きずり込まれそうになっている。


 隣で釣りをしていた私は咄嗟にミサオさんの体へと後方から抱きついた。

 そうして一緒に釣り竿を握る。


「セーヌさん!」

「大丈夫です。私に任せてください」


 ミサオさんを落ち着かせるようにそう言うと、身体強化を発動。

 鉄製のリールが唸りを上げて糸を引き出していく中、私は竿が折れない程度に徐々に引く強さを増していく。そしてようやく竿が安定したところで糸を巻取り始めた。

 しかし、極太の糸にも凄まじい張力がかかっている。

 余り急いで巻き取っては竿が折れてしまう。


「セーヌさん……このままじゃいつまで経っても釣れそうにありません……!」

「くっ……」


 私とミサオさんが不安げな表情を浮かべていると、エルミナーゼさんが合流。


「私に任せてください。糸と竿を元素で強化します!」

「嬢ちゃんそんなことができるのかい!?」

「お任せを……! ミサオも一緒に唱えてください……!」


 エルミナーゼさんが珍しくエルフ語のような古代語を詠唱する。

 そしてミサオさんがそれを真似るように詠唱していく。

 二人の声色が重なり、美しい響きを奏でる。


 詠唱が終わると竿と糸に風元素と水元素の力が加わった。

 これならばいける!!

 そう思った私は身体強化を強めて言った。


「ミサオさん踏ん張ってください!!」

「はい!」


 そうして一気に身体強化を強めて、リールを巻き取る速度を増していく。

 後少しで釣り上げられる……!!

 それを察したエルミナーゼさんが声を上げた!


「セーヌさん戦闘準備を……!」

「はい……! 釣り上げます!」


 その一声の後、私は大きく、そして強く竿を引いた。

 最後はどうするか聞いたとおりに一本釣りの構えだ。


 海上にエアームーンシャークの背びれが姿を現した!

 そして、私の強い引きに耐えられず、その体全体が海から持ち上がる……!

 私達は見事にエアームーンシャークの一本釣りに成功した!


 空中を大きく弧を描きながら、エアームーンシャークがこちらへと向かってくる。


「ミサオ! とにかく糸を巻き取ってください!

 あとは私達がなんとかします!」


そう言って、私とエルミナーゼさんはミサオさんの竿から離れ、打ち上げられてきたエアームーンシャークの着地地点へと向かう。


 どすんと大きな音を立てて浜辺へと打ち上げられるエアムーンシャークの巨体。

 しかしそれでもまだ致命傷には至っていないようで、びちびちと跳ねていた……。

 これならば簡単に討伐できるだろう。私がそう侮った直後……!


「シャアアアアアアア」


 エアムーンシャークが咆哮を発すると、突如として空中を泳ぎ始めた。

 風魔法と水魔法の応用のようで、エアムーンシャークの周囲にはそれらの元素が満ちている。


「空を駆けるというおとぎ話は本当だったのですね……」


 私が唖然としながらそう漏らすが、エルミナーゼさんがそれに答えるまでもなく突撃していく。


「ハアアアアア!」


 エルミナーゼさんから放たれる剣戟。

 それはエアムーンシャークの胴体を捉えた。

 しかし浅い……!


 エアムーンシャークは反撃をしようと体をくねらせ、その牙をエルミナーゼさんへと向ける。

 しかしそうは行かない!


「……!」


 私は無言でその牙へと斬撃を入れた。

 エルミナーゼさんへと牙が到達する前に、私の大剣がそれを阻み。

 エアムーンシャークがまるで大剣を咥えているかのような姿勢となった。


「グギャアアアアア!」


 エアムーンシャークが再度雄叫びを発し、周囲の水元素を使い攻撃魔法のようなものを発動し始めた。エアームーンシャークの周囲に水球が精製され、徐々に鋭い切っ先が作られていく。

 もう魔法の発動まで間がない……! そんな時だった。

 胴体に浅く切り込んでいたエルミナーゼさんが大剣を持ち上げ。

 再度の斬撃を放つ。


 今度は大剣の周囲に風元素による強化が付与されているようだ。

 周囲の風元素と水元素のせめぎ合い。


 しかし、エルミナーゼさんの一撃は的確に敵の首を捉えていた。

 エルミナーゼさん渾身の一撃に、エアームーンシャークの首が宙を飛ぶ。


 その巨体が動かなくなり、私達はエアームーンシャーク討伐に成功した。

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