26 港の異変
「ふぅー食べました食べました」
ミサオさんが満足そうにお腹を擦るのを片目に、私はこっそりと支払いを終えてきた。
「さぁ、次はどうしましょうか?」
エルミナーゼさんがケーキセットに付いてきた紅茶を啜ってから問う。
「ご飯もたくさん食べた事ですし、腹ごなしに散歩でもいかがでしょう? 港付近はまだ見て回っていませんから」
私がそう提案すると、二人は「いいですね」と了承してくれた。
店を出ると、私達3人は港の方角へと向かった。
そして、南カモメの声が鳴く港へとやってきた。
しかし……、
「どうしたものでしょう。尋常ではない数の南カモメの群れが鳴いていますね。
それに……なんでしょうかこの匂いは」
エルミナーゼさんが不審そうにそう言うと、私達の右側にいた老婆が話しかけてきた。
「旅のお方かい?」
「はい。私達は昨日行われた闘技大会に出るためにきました」
私が答えると、老婆は老獪そうな目を丸くする。
「闘技大会に……? それにしちゃ綺麗なお嬢さん方が揃ってる……。
まぁいいさ。このカモメたちをなんとかしてくれるってんなら誰だって良い」
「なんとかとは……どういうことなんですかお婆さん」
ミサオさんが老婆に寄り添って話を聞かんとする。
「モンスターじゃよ。この港の出口付近……。
ほれ、ちょうどあのサウスホーヘン右端の灯台近く。
あそこらへんにとんでもなく強いっていうエアームーンシャークとかいうのが、
1週間ほど前に住み着いたって話なんじゃ」
「エアームーンシャークですか!?」
老婆の話を聞いて、ミサオさんがびっくりして手を口にあてる。
「知っているのですかミサオさん」
「えぇ……昔から西方地域で広まっているおとぎ話に出てくるんです。
夕方から夜間にかけて、鳥たちが群れをなして陸側にあつまるそんな日。
エアームーンシャークが空を駆け、鳥たちをみんな食べてしまっているんだよって……」
「よく知っとるのうお嬢さん。
その通りじゃよ。夕方から夜にかけていつも鳥たちが群れをなしてこちらへやってくるようになった。同時に、ほれ……」
老婆が杖で波打ち際を指し示す。
そこには無残に食い荒らされた、鳥の死骸のように見えるものが散乱していた。
「エアームーンシャークはとてつもない大跳躍をする鮫でな……。
海中の魚達を狙う鳥達が高度を落としたその時、狙い撃つかのように猛烈な速度で跳躍すると、鳥たちをみーんな食ってしまうんじゃよ。
それが原因で鳥たちは沖の方角へ帰りたがらず、サウスホーヘンの砦付近に溜まるばかり。
海岸にはエアームーンシャークの犠牲になった鳥たちの死骸が打ち上げられて酷い異臭がするってわけじゃ」
やれやれと老婆が目を閉じる。
「昨日ギルドの依頼掲示板を見た時にはそんな討伐依頼は見ませんでしたが……」
「はぁ……問題はそれなんじゃよ」
老婆が更に顔を残念そうに崩して首を振った。
「サウスホーヘン防衛隊は知っとるかのう?」
「えぇ……昨日、闘技大会にも何人か出ていましたね……」
「そうなのですか?」
「セーヌさんは対戦相手にはならなかったのでご存知ありませんでしたか。
決勝に残ったヘルボクート以外にも何人かの防衛隊の人が出場していたんですよ」
エルミナーゼさんが説明してくれると、老婆が続けた。
「そのヘルボクートを始めとしたサウスホーヘン防衛隊が、自分たちで討伐するからといって、ギルドへの討伐依頼を拒んでおるのじゃよ。
この一週間浜辺に打ち上げられる死骸は増えるばかりというわけじゃよ……」
老婆は気落ちするように顔を伏せた。
冒険者ギルドに届け出られていないレアな依頼を前に、私の冒険者魂が燃えたぎっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます