25 港町の海宴亭

 宿を出て10分。

 私達は港付近の食事処に到着した。

 ここで海の幸を朝食として味わうことになっている。


「とれたて新鮮の海の幸だから、生で火を通さずにいただけるんですって!」


 ミサオさんが嬉しそうに声を上げ、「すいませーん」と店員に手を上げた。その声を聞いたのだろう、店員が、「はーい」と声を返しながら近づいてくる。


「こんにちは、海宴亭へようこそいらっしゃいました! ご注文はお決まりですかにゃ?」


 店員は猫人みゃおじん族の女性だった。ピクピクと耳を可愛らしく動かしている。

 セーフガルドでは余り見たことのない種族に、私は驚きの声を上げそうになった。

 しかし忘れない内に、私は気前よく切り出すことにした。


「その……ここの支払いは私が全て出しますので……」


 私がそう宣言すると、二人共遠慮するような姿勢を見せた。

 しかし、私が、「賞金があるので任せてください」と言い張ると「ではお言葉に甘えます」 とミサオさんが良い、渋々という感じでエルミナーゼさんがそれに従った。


「では、この海の幸盛り合わせ絶対満足セットを1つ……それから……」


 ミサオさんを皮切りに次々と私達が注文を言いつけると、猫人族の女性がそれを復唱しながらメモしていく。


「……それでは、最後、お食事後にお持ちするのは海宴亭特製ケーキセットを3つでよろしいですね?」

「はい!」


 ミサオさんが元気よくそれに答え、私達は注文を終えた。


「セーヌさん、ごちそうさまです!」

「ごちそうになります」

「まだ食事は来ていないのですから……お二人共まだ礼は速いですよ」


 私がそう言うと、二人はフフフと楽しそうに笑った。


 暫く3人で談笑していると、最初に届いたのは、二種の海鮮卵のご飯ドンブリだ。

 紅に光るサウスサーモンの卵が全体に光り、そして中央には黒光りするレッドシャークの卵が大スプーン1杯分ほど添えられている。


 そして、3人で一つ頼んだ海の幸盛り合わせ絶対満足セットが一つ届き、机の中央に数々の魚達の刺し身の盛り合わせが置かれた。


 それから私とミサオさんが頼んだ、ブルーアーチンのご飯ドンブリが届いた。

 ブルーアーチンの黄色い身がふんだんに盛り付けられている。


 3人共注文した品が揃ったところで、「頂きます」とミサオさんが挨拶し、食事が始まった。


「うーん……! サウスホーヘン近海で取れるブルーアーチンの身……単純に最高ですね……」

「分かります」


一口二口と口に入れる度に海の味と強い甘みが口にの中に広がって溶けていく。


「エルミナーゼ、ちょっとだけ交換しない?」

「構いませんよ」


 ミサオさんとエルミナーゼさんが少しずつドンブリを分け合い、ミサオさんが2種の海鮮卵を思いきりご飯と一緒に頬張った。


「うーん……! サウスサーモンの卵が蕩ける……! そこにレッドシャークの卵がやってきて抜群の塩加減……!」


 ミサオさんは満足そうにスプーンをぷるぷると軽く振るいながら言った。


「それでは……私はお刺身を頂きますね」


 一番の上物らしく、数が少ない魚の切り身を手にとった。そして鑑定。


 【ゴールドコインタニィの切り身】。

 中央大陸の南岸に広がる中央海で取れたゴールドコインタニィの切り身。

 一番油の乗っている部位。

 等級値150。


「なるほど……金貨――100エイダに相当するというお魚という事でしょうか」


 そう呟きながら、濃い茶色のソースをつけてから口に運んだ。

 舌に触れた瞬間に魚の油が、海の旨味が口全体に広がっていく。

 その味を楽しんでいる内に食べ終わってしまい、まるで切り身は溶けるように消えてしまった。

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