29 贋作

 セーフガルドへと帰ってきた私達。

 私はその翌日の朝にはセーフガルドの革細工職人ギルドに、エアームーンシャークの革を納入した。そしてそれで作られた革製の手甲を発注。良い物が仕上がってくると良いと期待が膨らむ。


「おかえりなさいセーヌ。どうだったの闘技大会は」

「はい。準決勝で降参することになりました」

「あら……セーヌでも負けることはあるのね。

 まぁ相手は本職なんだろうから、気にすることはないわよ」


 ホウコさんがそう励ましてくれて、ぽんと私の背中を叩いた。

 実際には実力はかなり拮抗していた。イアさんの雷元素の消費量は甚大だったようだし、もう少しだけ戦闘が長引けば、風元素を使って神速状態をしていた私が勝ったかも知れない。


 だが結果は結果だ。

 降参したのだから負けは負け。私は素直にそれを認めている。


「セーヌさんこちらの清算をよろしくお願いします」


 いつも丁寧な口調のベテラン冒険者が私の元へとやってきた。


「はい。依頼達成証を受領しました。Cランク依頼達成おめでとうございます」


 いつものようにぺこりとお辞儀し、冒険者の成果を称賛する。

 やはり私には受付業が似合っているのかも知れない。

 しかし、こうして様々な冒険者達を相手にしていると思うことがある。

 まだ見ぬ地への冒険の憧れが耐えないのだ。


 けれど、エアームーンシャーク討伐にせよ、ミサオさん、エルミナーゼさんの二人がいたからこそ達成できたことだ。闘技大会でもイアさんに破れてしまっている。

 私はまだまだ実力不足である事を痛感していた。


 そんな事を考えていると、リエリーさんがやってきた。


「こんにちはセーヌさん。こちら捜索依頼の報告書になります」

「はい。お疲れさまでした。

 これは……なるほど、件の即帝領の大太刀の贋作製作者の捜索依頼ですね。

 遂に見つけたんですね。さすがは名探偵Sです」

「えへへ」


 私がリエリーさんを褒め称えると、いつものようにくるりくるりと左手の指を回しながらリエリーさんが照れ笑いする。


「興味本位なのですが、製作者はどんな人だったのですか?」

「それが……最近鍛冶職人ギルドに登録して鍛冶を開始した新米鍛冶師だったんです。

 東方の親元で鍛冶をしていたとかで齢17歳で上級鍛冶職人スキルをお持ちで……」


 リエリーさんの話を聞いていて、私は思い当たる節があった。


「リエリーさん。まさかその方はルマさんと言う方ではありませんか?」

「えぇ、そうです。セーヌさんお知り合いですか?」

「はい。私の大剣を一緒に拵えてくださった方です」

「はーなるほど。あの大剣もルマさんの作だったんですね。

 なんでもルマさんは刀作りの腕が鈍るのが嫌だったそうで、習作として即帝領の大太刀を絵を頼りに再現したのだとか……。

 それを先輩の鍛冶師が横領して、古物商に横流し。

 それを良からぬ冒険者が本物としてギルドに売りつけようとした……、

 というのが事の経緯でした」


 リエリーさんが詳細に事の経緯を説明してくれた。


「それを冒険者が持ち込んできたのですね……」

「はい。そうなります。これで贋作騒動も落ち着きはしたのですが……。

 私にはまだ気になることがあるんです。

 一体誰がこの依頼を通したのかということですセーヌさん」

「確かに……ここ――冒険者ギルドからの依頼ですものね……」


 リエリーさんは若干私に被り気味に「そこなんですよ」と言って、くるくると左手の人差し指を回す。


「即帝領の贋作が作られた経緯は分かったから良いのです。

 しかし、なぜ冒険者ギルドがその贋作製作者を探しているのかがさっぱりです」


リエリーさんが首を横に振る。

そこへホウコさんがやってきて「あら、贋作製作者は分かったの?」と聞いてきた。


「はい。ホウコさん。こちらリエリーさんの調査結果の報告書です」

「ありがとう」


ホウコさんは調査報告書を受け取ると、真剣な眼差しでそれを読む。

3分もしただろうか、それを読み終えると残念そうな表情で話し始めた。


「絵を見てこの刀を作った――それで間違いないのよね?」

「はい。ルマさんに聞いたところ、それで間違いありません」

「そう……」

「ホウコさん。できればどうして製作者を探していたのか教えて頂けませんか?」


 私が興味本位でそう質問すると、ホウコさんはゆっくりと首を縦に振った。


「即帝領って言うからには二人共、即帝の事は知っているわね?」

「はい。日曜教室で習ったことがあります。

 遥か数千年前。中央大陸から東方に至るまでを僅か数年で支配するに至ったという伝説の為政者です。

 その余りにも速い統治速度から、即帝と呼ばれています」


 私が小さい頃からの知識を披露すると、リエリーさんもうんうんと縦に首を振る。


「そう。その即帝なんだけど、件の大太刀に代表されるように、

 刀と魔法の2つを使う人だったらしいのよ。

 昔から即帝が使った大太刀の本物を探し求めて、数々の冒険者が即帝領に挑んだわ。

 けれど、即帝のご遺体と共に安置されているらしいというその本物は、

 まだ見つかっていない……」

「経緯がだいたいですが読めました。

 そんな時に、かなり完成度の高い贋作が現れたというわけですね」

「えぇ……そうなるわ……。

 ルマさんが参考にしたっていう絵は、セーフガルド博物館にあるもの――つまり、何千年も前に側近の人が書いたと言われているものなの」

「つまり余りにも完成度の高い贋作が出現したものだから、

 『実物』を見たのではないか、と……それで製作者を探していた……そういう事でしょうか?」


 私が頬に人差し指を当てながら推察する。

 と、鑑定一部失敗の文字が踊る。

 エルミナーゼさんがまたギルドに用事でもあって来たのだろうか?


「えぇ。そうなるわね」

「しかし何故ギルドが即帝領の探索を?」

「それは……」

「それは私がお答えしましょう……」


 と、私達の会話に突如乱入する男が現れた。

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