23 闘技大会決勝戦
「お疲れさまでした、セーヌさん」
試合後、開放劇場の観客フロアへと向かった私に、ミサオさんが私に労いの言葉をかけてくれる。そうして、「こちらをどうぞ」と、疲労回復の効果があるという回復薬入りの葡萄ジュースを私にくれた。
私はそれを有り難く受け取り、一気に飲み干す。
神速での戦闘状態をあれほど長時間維持したのはこれが初めてだった。体の疲れは正直なところ頂点に達しつつあった。なので、試合後に飲み物を貰えてとても助かった。
「助かりました……喉がからからだったので」
実は汗もすごくかいてしまっている。試合後に貰ったタオルで拭きはしたものの、それもまだ十分ではない。闘技大会後に宿に着いたら速めに着替えることにしよう。
「いえ……ところで……」
「あれは何者ですかセーヌさん」
ミサオさんが言葉を濁したところを、矢継ぎ早にエルミナーゼさんが紡いだ。
「あの方は……イアさんは勇者です。鑑定したところ辺境の勇者Sスキルをお持ちでした」
「ほう……」
聞いて、エルミナーゼさんが鋭い目線を今は闘技台となっている演技台へと向けた。
「勇者……ですか。それはそれは……私も勇者さんとお話したかったです」
ミサオさんが苦笑しながら私に言う。
「出身はディッセントブルクと言いましたか? 当代きっての勇者は北の果てキルエス出身と聞いていましたが……」
「はぁ……そうなのですか?」
私がエルミナーゼさんに問うと、エルミナーゼさんは慎重な面持ちとなって続ける。
「えぇ……ディッセントブルクと言えば西方の中央付近にある小規模農村です。そこから勇者が誕生したという話は耳にしたことはありませんでしたが……」
「まぁまぁエルミナーゼ。勇者といっても、勇者スキルを持つ人達が皆そう呼ばれているんだもの。辺境の勇者レベルであれば、世界中を探せば何人もいるものよ」
「しかし……」
エルミナーゼさんはまだ納得していないようだったが、ミサオさんに言いくるめられて黙る。
「あれが辺境の勇者ですか……」
私は辺境の勇者と同等に戦えたことを誇りに思った。そうして続ける。
「まだお若いのに大した実力ですし、魔王が討伐される日も近いかもしれませんね」
「えぇ……そうですね」
ミサオさんが答えて、私達はイアさんについての話題を終えた。
「それにしても、決勝戦が始まりませんね?」
エルミナーゼさんが不審そうに闘技台を見つめる。
「イアさんは既に闘技台に上がっているようですが、相手の方が出てきませんね……?ええっと相手は確か……」
「サウスホーヘン防衛隊隊長の息子さんで……名前はなんだったかしら……」
ミサオさんがエルミナーゼさんの方を見る。
「ヘルボクートです。
「恐れをなして逃げましたね……」
エルミナーゼさんが確信を持ったかのような表情で呟く。
「そこまで実力差が……?」
その私の台詞を聞いて、ミサオさんがフフフっと笑う。
「セーヌさんはもう少しでいいですから自分の強さを認識してください。仮にもこの私が特級大剣術までお教えしたのですから……」
エルミナーゼさんがそう言って私に笑いかけた。
すると、審判のルゼルフさんに最初開放劇場の受付にいた女の子が何か耳打ちをしにきた。
それからルゼルフさんが開放劇場の観客に語りかけ始めた。
「えー。対戦相手のヘルボクート氏は緊急の防衛任務の為欠場となりました。よって優勝はディッセントブルクのイアさんに決定致しました!!」
その言葉を聞いて、エルミナーゼさんがしてやったり顔で「やはりな……」と呟いた。
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