22 勇者との戦い

「勝者っ、冒険者ギルド受付のセーヌ!」


 審判の老紳士、ルゼルフさんの声が開放劇場に響く。

 数撃で敵の武器を破壊し、あっけらかんと初戦を突破してしまった私。

 帰り際にミサオさんとエルミナーゼさんが応援しているのを見つけぺこりとお辞儀。

 こんな簡単に勝ってしまっていいのだろうか……という疑念に駆られながらも、私は控室へと戻っていった。


 そして2回戦、3回戦と勝負は進んでいき……。

 準決勝にして、私は強敵にぶち当たった。


 ディッセントブルクのイア。


 そう紹介されたイアさんは、私に不敵な笑みを向けて言った。


「セーヌさんやっほ! 当たると思ってたけどやっぱりかー。私どうしても優勝賞品が欲しくてさー。だから負けないよ!」


 と言われても、私は優勝賞品がなんなのかを把握していない。

 優勝賞金の1万エイダを含め、たくさんの賞品が招待状に書かれていたような気もしたが……具体的には忘れてしまった。


「……お手柔らかにお願いします」


 そう言って一礼。私は大剣を構えた。


「勝負始め!」


 審判である開放劇場副支配人――ルゼルフさんの声が試合開始の合図だった。


 私はまずは普通に身体強化しての袈裟斬りを放つ。

 最初は武器を取り回すだけの一撃で……とも考えたのだが、相手は私より年下そうなイアさんとはいえ、勇者Sスキルを持つ者だ。

 最初から少しくらい本気を出したって問題はないだろう。


 イアさんは私の一撃を受けることなく、後方へと離脱。

 私の袈裟斬りは空を切った。


「わーお、いい剣戟放つなぁ……接近戦はちょっち厳しいかな?」


 軽口を叩きながらイアさんは周囲の元素を集め始めた。

 イアさんが集めているのは雷元素だ。開放劇場の周りにいる観客たちの衣服などから雷元素がイアさんへと集まっていく。


「撃てて2回って感じだけど、まぁ仕方ないか……!」


 イアさんの左手から轟くような雷が迸る。

 魔法攻撃をまともに受けたのはこれで2度め・・・だ。

 一度はエルミナーゼさんとの対人戦闘修行でウィンドカッターを受けている。


 私は大剣を横にして、土元素を纏わせてからその雷を受けた。

 そして円形の闘技台の上に大剣を突き刺す。

 雷元素の通り道を作ってやって、雷の力が私に届くのを防いだのだ。


「へぇ……やるじゃん! もうこうなったら切り合いするしかないか!」


 イアさんは続けて私に切りかかってきた――速いっ!

 私の元素感知によればこれは身体強化による攻撃だ。

 私が土元素で防いで開放劇場内に散らばった雷元素を、身体強化に使っているようだ。


 縦横無尽に片手直剣による攻撃が繰り出されれるも、私はなんとかその連続攻撃を受けきっていた。速さにも眼が慣れてきている。


「うーん、奥の手で行くしかないっかー……!」


 イアさんが鍔迫り合いの最中にそう言って、一度私から距離を取った。

 そして再び雷元素を会場全体から集め始める。


「これは……」


 私は元素感知をしていて、その元素の流れに見覚えがあった。

 これは……雷元素による神速スキルなのではないだろうか。

 気付いた瞬間、私も周囲の風元素を集め始めた。間に合え……!


「これで終わらせて貰うから……!」


 イアさんがそう言い放ち――やはり猛烈な速度で私に接近してきた。イアさんの周囲には雷が迸っていて、移動速度を飛躍的に増しているようだ。


「そうは行きません……!」


 そう言って私も神速を発動。

 風元素を後ろから思いっきり吹かせてイアさんの神速攻撃を迎え撃った。

 ――衝突。


 迸る雷元素と風元素の奔流は会場全体を暴風の嵐の最中へと変えていた。

 轟く雷音、そして暴風が起こす風切り音とが混ざり合っていく。


 衝突後に一度距離を離し、またしても斬り合いと衝突。

 その度に凄まじい風の音と雷音が開放劇場へと響き渡る。

 それが数度繰り返され、


「やるね……!」

「そちらこそ……!」


 という会話が轟音轟く鍔迫り合いの最中に私達の間で交わされた。

 会場の観客たちは大いに湧いているように見えるが、私達にはその音は聞こえなかった。

 ただ私達二人は、全力での戦いにその全神経を使っていた。


 雷元素をその身に纏って神速を維持したまま、イアさんが再び距離を取った。

 そして言った。


「ごめんだけど、降参してくれないかな? もし私が勝てたら賞金は上げるからさ」

「はい……?」

「だから交渉だってば、こ・う・し・ょ・う! 私が優勝したら賞金は全部上げるからさ、優勝賞品は私に譲ってくれない?」

「はぁ、言っている意味は分かりますが、本気ですか?」


 イアさんのその身には未だに雷元素が纏われ、周囲を雷が支配している。

 そんな神速状態でやる気まんまんの状態を維持していては、とても本気とは思えなかった。

 私も神速状態を解除するわけにはいかない。勝負事というのは最後まで油断してはならない。


「んじゃ、これでどう!」


 私の意が伝わったのか、イアさんはなんと神速状態を解除してしまった!

 イアさんの周囲に迸っていて雷が、開放劇場全体へと霧散していく。

 それを見て、私は答えた。


「分かりました……それほど欲しい物がどんな賞品かは気になりますが」


 そう言って、私も神速状態を解いた。

 それから私は、審判のルゼルフさんに向けて降参を申告。

 私達の戦いはそれで決着した。

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