21 開放劇場
開放劇場へとたどり着くと、劇場の周りにはイチゴ飴、ソーセージ包み、猪肉の丸焼きなどなどたくさんの屋台が並んでいた。
私達は食欲に行き先を左右されることなく、すぐに開放劇場へと入っていく。
「こちら選手入場口となりま~す!」
木製の看板を持った女の子が案内をしていた。
「それでは、私はこちらですので」
「頑張ってくださいねセーヌさん」
「気負わず、教えた通りにやればいいのです」
「はい」
エルミナーゼさんとミサオさんと別れ、私は選手入場口を進んでいった。
「こちら選手受付となっております」
老紳士が受付をやっているが……この老紳士、恐らく相当な手練だろう。
私はエルミナーゼさんとの修練の中で獲得した対人直観スキルがそう告げていた。
試しに鑑定してみようか迷っていると、
「あれ~お姉さん受付しないの~?」
と、後ろから声をかけられた。
声をかけてきたのは、濃い紫色の長髪に編み込みを入れた元気そうな少女だった。
しかし……。
「すみません。お先にどうぞ」
「お~う、ありあり~! んじゃお先に!」
少女は元気に答えると、さらっとサインをして選手控室へと進んでいく。
「……」
あの少女もできる。
私の対人直観が正しければ……。
「お客様、選手登録はしないのですかな?」
老紳士が聞いてくる。
「いえ、失礼ですがお名前を伺っても?」
「これはこれは……私、この開放劇場で副支配人を務めておりますルゼルフと申します」
「副支配人のルゼルフさん……私はセーヌと申します。本日はよろしくお願いします」
私はそう言って、ルゼルフさんからペンを受け取ると、選手登録名簿に名前と冒険者ギルド受付である事を記入した。
その際に、前に記入した少女の名前が目に入った。
イア――名簿にはそう記されていた。
「それでは選手控室へとお進みください」
ルゼルフに言われるがまま、私は少女の向かった選手控室へと進んでいった。
選手控室は普段は劇などの催し物に出演する演者の控室のようで、赤や緑、青などの布で闘技大会の選手控室としては些か豪奢すぎるほどに彩られていた。普段、演者が化粧をするのを補助するためだろう。鏡も各所に置かれている。
その中に厳つい男たちが闘技大会の為に押し込まれていて、一触即発とでも言えるような様相を呈していた。
そんな中、私は空いている椅子を見つけると、大きめの丸鏡の前に置かれているそれに腰を下ろした。
「ふぅ……」
とため息をついたその数秒の後、
「やっほ! さっきのお姉さん!」
と、ばんと思いきり肩を後ろから叩かれた。
鏡越しに相手を見る。
さっき私より一つ先に選手登録をすませた少女だった。
少女は私の肩を叩いた手をそのまま両肩に載せながら、おどけたような真紅の瞳で話を続ける。
「さっきは受付だったからあまりお話出来なかったけど、同じ女の子の出場者同士仲良くしよー! 私はイア! あ、鑑定していい?」
少女の――イアの突然の申し出に、私は怪訝そうに眉を少し顰める。
しかし、鑑定されて特別困ることもない。
私が闘技大会に出場する目的は勝つことではないからだ。
目的は少しでも対人戦闘の経験を積むことにある。
「私はセーヌと申します。構いませんが……」
私が消極的に承諾すると、イアさんは「やったっ!」と言って鑑定を始めたようだ。
「うわっ特級大剣術の使い手かー。セーヌさんだっけ? 見た目に反してえぐいね。私自分以外に特級を見たのこの街に来てから初めてだよー」
他の人に聞こえないように配慮してだろう。
イアさんは私の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁きかけるように感想を語る。
肩に置かれていた手は手を通り越してもはや腕となり、かなり密着した状態だ。
「ふーむふむ。そっか鍛冶職人で、錬金術師で、あとは冒険者ギルド受付……? セーヌさん一体いくつの職業適性持ってんのさ、笑うわー。あはははは」
イアさんは私の鑑定結果を見てひとしきり笑うと「んじゃ次こっちの番ねー」と言ってきた。
「いえ……私は別に……」
気にはなっている。気にはなっているが、戦いの中で初めて鑑定をして戦いにその結果を活かすというのもエルミナーゼさんとの対人戦闘修行で教えてもらったことだ。
この少女と、戦いになった時に初めて鑑定をする戦いをしてみたいという思いもある。
「いーや駄目です。私だけ見せてもらったんじゃ不公平でしょ! あと鑑定妨害はしないようにしとくからね!」
少女に押し切られ、私は仕方なく鑑定を行った。
【人族。女性】。
【特級片手剣術A】、【上級雷魔法A】、【上級炎魔法B】、【中級草魔法B】、【辺境の勇者S】、【上級冒険者S】、【身体強化A】、【元素感知B】、【元素操作A】、【対人戦闘B】、【威圧A】、【神速A】【上級鑑定妨害S】、etc……。
勇者……!?
私がびっくりしてぽかんと口を開けると、鏡越しにその表情を見た少女がにかっと子供のような笑顔で私を見る。
「誰にも言わないでねっ!」
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