17 Interlude1 エルミナーゼ無双

「行きますよ!」


 リエリーさんに声をかけると、私達二人は誘拐犯のアジトへと突入していく。

 セーヌさんは見事に斧槍の男を誘導することに成功したようだった。

 しかし、私はセーヌさんがなぜあそこまで軽い一撃をわざわざ男に放ったのかを疑問に感じていた。


 身体強化による攻撃を放てばよかったのに……。


 そうすれば門番の男は一撃で沈んだのではないか……。

 私はセーヌさんの神速からの一撃の威力をよく理解している。

 中級冒険者程度の実力では到底受けきれまい。

 あるいは全力で身体強化と神速をした攻撃は私でも……。


 そんなことを考えながら、私はアジトへと突入していた。

 私はセーヌさんのように鑑定スキルを広範囲に発動できるわけではない。

 私の鑑定Cではせいぜい鑑定範囲は周囲3m程度だ。

 その範囲内に人質となっている女の子達がいる気配はなかった。


 しかし、


「エルミナーゼさん。建物の構造的にこちらに隠し部屋がありそうです! 私はそちらへ向かいます! 大部屋の中の男たちをよろしくお願いします!」


 共に突入したリエリーさんがそう言って私から離れていってしまう。


「それは……」


 ……本当なのですか? そう声をかけようとしたのだが、リエリーさんは確信を持っているようで、私の声が耳に届く前に去っていってしまった。


「仕方ありませんね……」


 どちらにせよ私が残りの敵全てを相手にする予定だった。

 ここセーフガルドで私に敵う相手がそうそういるわけがないと思ってはいる。思ってこそいるが、しかし用心に越したことはない。私は大部屋へ入る前に慎重に鑑定をした。

 一人の男の鑑定結果が私の脳裏に流れる。


 問題はない。敵は先程の男と同じく中級冒険者らしかった。

 使う武器種は恐らく片手長剣……あるいは短刀術かもしれないと分かった。

 だが中には喧騒からして恐らく複数の男がいるだろう。


 私は大部屋の扉を勢い良く開くなり、まず座って酒を飲んでいた左側の男の首を切り飛ばした。

 右側に座っていた男が、「ひえっ」と小さく嗚咽を漏らす。


「な、何だお前ぇえええ!」


 右側に座っていた男が立ち上がると、テーブルに置いてあった曲刀を抜いた。

 辺りには切り飛ばされた男の血しぶきが乱れ飛んでいる。


 私は即座に右側の男へも斬撃を放とうと態勢を直そうとする。

 しかし、それはすぐにやめた。


 奥に男が一人いた。

 藍色の長髪の癖っ毛。紅色の瞳。

 窓際に寄りかかるようにして、酒を飲んでいたようだった。

 しかし私が左に座っていた男の首を切り飛ばしたのを眺めた後、ゆっくりと長めの長剣と短刀に近い剣の二本の剣を腰から抜いた。


 二刀剣術の使い手……? こいつ……できる……。


「貴方達が誘拐犯であるという証拠は上がっています。素直に降伏しなさい。さもなければ左の男のようになるだけです……!」


 私がそう高らかに宣言でするが、奥の男は動じる様子がない。

 右側の男はというと、部屋の後方へと後ずさっていく。


「ほう……嗅ぎつけるのが早いな。優秀な冒険者がこんな辺鄙な田舎町にいたものだ」


 奥の長髪の男が前に出てくる。

 そして、男は酒盛りが行われていた机を思いきり蹴飛ばした。

 それからすぐに私へと接近してくる。

 そこへ私は身体強化をした縦斬りをして男を迎え撃った。


 だが、


 男は2つの剣を交差するように頭の上で身体強化の縦斬りを受けた。

 やはり……こいつ中々にできる。


 私はすぐに男を鑑定した。


 ――鑑定一部失敗しました。

 【人族、男性】

 ?級二剣術。鑑定妨害C、etc……。


 鑑定妨害に合うものの鑑定に成功する。

 すると男が言い放つ。


「まさかここで西方の大剣術の使い手に出くわすとはな……女! どこの出身だ! 見たところ西方奥深く、魔王城の周囲にある迷いの森に住むというエルフ族に見えるが……?」

「ちっ」


 私は舌打ちして鍔迫り合いをして男を奥へと押し返した。


「どうした! 答えないのか!」


 藍色の長髪を短刀を持つ左手で掻き乱しながら、男が私に問う。


「貴方方と問答をするつもりはありません!」

「ふん……!」


 私は男との問答を切り上げると、全身に風元素を集め始めた。


「なにかするつもりのようだが……」

「……」


 男は警戒するように腰を落として、二つの剣を軽く交差させる。

 それがあの剣術の基本姿勢なのかもしれない。

 しかしそんなことはどうでも良かった。

 何よりも速く。何よりも強く。

 私は最大の一撃を敵に放つのみだ。


 風元素を全身を超えて、刀身にも這わせていく。

 そうして一閃。

 勝負はそれでついた。


 私は男の背後の窓際へと居場所を移していて、素っ頓狂に藍色の髪の男が言った。


「へ……?」

「……」


 男の剣が2本とも折れて地面へと崩れ落ちる。

 そして、


「あ、兄貴……!!」


 と右側にいた男が声を荒げたその時、

 藍色の長髪の男の体は胴体付近で真っ二つになって、上半身が前へと崩れ落ちた。


「バカ……な……」

「ひいいいいいいいぃいいぃ兄貴ぃいいいぃぃいい。こ……降参だ! 降参するっ!」


 もう一人残された男が、武器を投げ捨てる。

 そうして私は大部屋の中にいた3人を制圧することに成功した。

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