16 斧槍との戦い
先制攻撃は私だ。
声を上げずに男の目前へと走り込むと、軽く袈裟斬りを放つ。
男は動揺しつつも私の大剣の一撃を受けると、
「なんだ……てめぇっ!」
と叫ぶ。しかしそんな言葉を聞いている余裕は私にはなかった。
なにせ初めての対人戦闘である。こんなことならばエルミナーゼさんと撃ち合いの練習をしておくべきだったと深く後悔している。
「女の子達は返して頂きます!」
考えていた通りの台詞を言い放つと、鍔迫り合いを解消して私は男から距離を離した。
そして森の方へと私は男を誘導せんとする。
「待てっ!」
作戦通りに男が私に注意を逸し。私を追うようにして森へと入ってきた。
その隙に、エルミナーゼさんとリエリーさんの二人がアジトへと突入するのが見えた。
男の注意を引きつつ走ること1分ほど。
男が後ろを気にし始めたのが私にも分かった。
門番の役目を全くまっとう出来ていないからだ。
これ以上アジトから引き離されるわけには行かないとようやく気付いたらしい。
と、男が私を追うことを諦めて、アジトへと踵を返しはじめた。
「まずい……!」
小さくそう呟くと、私は男へと「ハアアアア!」と大きな声を上げながら攻撃を仕掛けようとした。もう逃げ続けておくことは出来ない。
「ちぃ!」
しかし男も私に背を向けたことを気にしていたようで、振り返りざまに斧槍で払い攻撃をしてきた。すんでのところでそれを後退して避ける。
「お前……一体何者だ!? 俺をあそこから引き離すような動き……仲間がいるんだろう!?」
男がそう言い当ててきたことで、私は答えてしまうことにした。
「ご明察です」
「くそったれっ!」
男は踏み込んできて突きを放つ。
私はそれをするりと避けた。
相手の攻撃は見える。特級大剣術の技量補正の影響かもしれない。
だが油断するわけには行かない。相手は中級斧槍術の使い手。
私はまだまだ大剣術使いとしては駆け出しも良いところだ。
男は突きを避けられても諦めず、私に対して無言で何度か突きを放ってくる。
私はその連続突きも慎重に見切って避けきる。
私が避けてばかりで攻撃していなかったからだろうか。
「時間稼ぎのつもりか!」
と、私に男は言う。確かにそうだが、私としては攻撃していないのは単純に避けるのに集中していたからだ。決して時間稼ぎのために攻撃を避けてばかりいたわけではない……。
私が答えずに黙っていると、
「付き合いきれるか!」
と言って男が再び私に背を向けて全力疾走し始めた。
しかし逃がすわけにはいかない。
私はこの斧槍の男を引き付けておくよう引き受けたのだ。
私は全力疾走する男を追うために、瞬時に全身に風元素を纏い、そして辺りの草元素で身体強化を行った――神速を発動したのだ。
猛烈な速度で男を追い抜くと、私は男の前に立ち塞がった。
「逃がすわけには行きません」
辺りの木々が神速による暴風の影響で強く揺れ動く。揺れた木々に止まっていたであろう鳥たちの羽ばたく音が聞こえる。
「ひっ!」
男が一瞬だけ怯えるような声を上げた。
鳥の羽ばたく音に臆してしまったのだろうか。
「くっそーっ……!」
男は斧槍を構えて深く腰を落とす。
が、攻撃してくる気配がない。
ならばこちらから攻撃するか……と私は周囲の風元素と草元素を再び集め始めた。
私渾身の一撃――神速からの強力な身体強化攻撃を放つ為だ。
これで駄目ならば私は男を倒せないだろう……。
男の額に汗が滲んでいるのが見える。
男も私をようやく敵と認識してくれたのかもしれない。
そろそろ元素が私の扱える許容量いっぱいに貯まる……。
さぁ……行きます……っ!
そう思い、男を睨みつけた直後だった。
「参ったあああああ」
男が斧槍を放り出すと、両手を上げて地に伏した。
「頼む! 命だけは助けてくれえええ!」
「はい?」
「だから降参するって言ってるんだ! ほら!」
男は手をあげたままにそれをアピールしてくる。
なので私は男にじりじりと近づくと、大剣の切っ先を向けた。
「動かないでください!」
「分かってる、分かってるから……!」
そうして、男の手足を事前に用意していた縄で縛り上げると、私は男を取り押さえることに成功した。
しかし、男は何に臆してしまったのだろうか……。
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