14 証拠は掴みました
翌日。
私達は朝の挨拶を終えると、ギルド業務を開始していた。
今日はギルド受付の人数は多い。
緊急依頼はまだ解決されていない。娘さんが昨夜は家に戻らなかったということだ。
折を見て私も捜索をやってみてもいいだろう。
「セーヌ。昨日の迷子の子、まだ見つからないんですって?」
ホウコさんが心配そうに私に聞いてきた。
「はい。何人か別の迷子の子を連れてきた冒険者はいたのですが、依頼に該当する女の子は行方不明のままです」
「そう……」
腕を組み頬に手を当てるホウコさん。
そんな折に、エルミナーゼさんがギルド会館を訪れてきた。
私は常時鑑定を展開しているので、また鑑定一部失敗したことで気がついたのだ。
「エルミナーゼさん。申し訳ありません。業務の一環とは言い切れませんが、私は会館内では常時鑑定を展開しているもので……」
「構いませんよ。ところで、Bランク相当の依頼はありますか?」
「Bランクですか?」
私の隣で作業をしていたホウコさんが驚くような声を上げた。
「いえ……現状、Bランク以上の依頼は発令されていません」
Bランク以上と言えば、街を超えて地方レベルの驚異となり得るような厄介な依頼だ。迷い竜などの超大型魔獣の討伐に始まり、突如として発見された古代遺跡などの最奥探索依頼など、Aランク以上の国家レベルに類するような依頼も一部含まれる。
ホウコさんが答えると、エルミナーゼさんは残念そうに「そうですか……」と肩を落とした。
そこへ、会館内に走り込んできた冒険者が現れた。
リエリーさんだ。
リエリーさんは私達の前に躍り出ると「セーヌさん!」と私に声をかけて続ける。
「証拠は掴んだんです……!」
リエリーさんが少し息を切らせながら、魔女帽子の鍔を掴んで顔を隠しながら言い放った。
「証拠と言うと……何か迷子捜索依頼で進展があったのですか?」
「さすがはセーヌさん。察しが良いですね」
呼吸が落ち着いてきたのか、リエリーさんが話し始めた。
「迷子の子供を捜索していたのです。そこで私は住宅周囲の聞き込みの後に、不審な男がいたことを知りました。私の調べによれば男は近所の酒場に顔を出したことがあるらしく、昨夜も現れないかと酒場を張っていたんですよ」
「それで男が現れたと?」
私が聞くと、リエリーさんは説明を続けてくれた。
「はい。ビンゴでした。男は酒場で大量の食糧を調達しました。そして私は慎重に男の後を追いました。それから行方不明となった少女の他にも、複数の女の子が監禁されているであろう現場を突き止めたんです!」
「それではこれは誘拐事件だと……?」
ホウコさんが問うと、リエリーさんはこくりと首肯した。
「私は件の女の子の他にもう一人、連れ去られて来たであろう少女がアジトに連れ込まれるのを見ました! 間違いありません! これは誘拐事件だと断言します!」
リエリーさんが高らかにそう宣言し、ホウコさんと私が顔を見合わせて頷いた。
「セーヌ。依頼をC~Bランクに格上げして、再度緊急依頼の鐘を鳴らして頂戴。それから被害者奪還の為のパーティ編成を」
「はい」
私はホウコさんに言われるがままに、リエリーさんから得た情報をまとめて依頼票を作成。再度依頼掲示板に貼り付けてから、緊張しながら鐘を鳴らして叫んだ。
「E~Dランク相当の緊急依頼に関して情報が更新されました! 新しい依頼ランクはC~Bランクとなります! 詳細は掲示板に張り出されましたので、冒険者の皆さんはご確認ください!」
私が緊急依頼の発生を伝え終わって戻ると、エルミナーゼさんが私を待っていた。
「セーヌさん。私がこの依頼を引き受けました」
そう言って、エルミナーゼさんが冒険者カードを私に差し出してきた。
水晶にカードを当てて冒険者情報を参照する。
【エルミナーゼ・女性】。
Aランク冒険者。
そして過去の達成依頼がずらずらと並び立てられた。
中にはAランク相当依頼がいくつか含まれている。これならばエルミナーゼさんに任せても問題はないだろう。ほっと私は胸をなでおろした。
「エルミナーゼさんはAランク冒険者だったのですね」
「いえ……Aランクと言っても私は駆け出しのAですよ。ほとんどはBランク相当依頼を請け負っています」
エルミナナーゼさんはそう謙遜するが、私は彼女の実力を知っている。
Aランク冒険者を見たのは私は初めてだった。さすがは特級大剣術の使い手だ。
私は自らの師匠たるエルミナーゼさんに尊敬の目を向けた。
「ですが……お一人でお受けになるのですか?」
ホウコさんがエルミナーゼさんを心配するように見た。
「はい……。と言いたいところですが、現地を知っているリエリーさんをパーティに組み入れたい。それから……」
言って、エルミナーゼさんが私を見た。
「セーヌさんをお貸しして頂けますか?」
「はい?」
私はエルミナーゼさんの台詞にぽかんと口を開けて答えた。
Eランク冒険者になったばかりの私に、C~Bランク相当の依頼なんてこなせるわけがないではないか、と。
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