11 大剣の特訓

 【初級鍛冶職人S】。

 鍛冶職人の初歩を習得した証。

 初級鍛冶を行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【中級鍛冶職人S】。

 中級鍛冶職人としての証。

 中級鍛冶を行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【上級鍛冶職人S】。

 上級鍛冶職人としての証。

 上級鍛冶を行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 研修の明くる日。

 私はいつものように自らの冒険者カードを水晶にかざして何度もスキルを確認していた。

 鍛冶スキルは予想していた中級を超えて、ルマさんが身につけていた上級を会得している。

 大剣も手に入れたし、研修の成果は十分すぎるほどにあった。

 着実に強く、賢く、そして技術力をも身につけている。

 このまま今日も頑張っていこう!


 大剣といえば、新人研修の帰りに木工ギルドに大剣の鞘を発注した。

 エルミナーゼさんに習うならば鞘は必要だろう。

 それから私はミサオさんに教えてもらって作った防錆薬の、大剣への塗布も行っている。

 大剣は黒く鈍い光を放つ、見事な業物となった。


 【黒ずんだ片刃大剣】。

 鉄で作られた片刃の大剣。

 防錆薬が塗布されている。

 等級値980。


 あとは今日の午後、大剣術を教えてもらうだけだ!







「ハァッー!!」


 私はミサオさんの用意してくれていた丸太相手に、大剣を振り下ろした。

 片刃大剣の峰の部分が丸太へと命中。

 下の部分が杭となっていてエルミナーゼによって地面深くに打ち込まれたその丸太は、倒れることこそなかったものの傾く。


「いいでしょう。基本はできていますね」


 身体強化をしながら大剣を袈裟斬りで丸太へと当てただけだったが、エルミナーゼさんは上々と言った様子で一拍手打って言った。


「それでは元素を刀身に纏わせる為の技術を身につけて頂きます」

「元素を刀身に……ですか」

「その通りです」と言って、エルミナーゼさんは続ける。


「基本は身体強化と同じです。

 より強く、より重く……元素毎にそのようなイメージで大剣の刀身へと纏わせます。

 手本を見せましょう」


 エルミナーゼさんは丸太の前に立つと、大剣を構えた。

 そして一閃。

 周囲の風元素が渦巻いて刀身へと絡みつくようにみえた。

 そして、すぱっと鎌鼬でも起こったかのように丸太の上部が切り飛ばされた。


「それではやってみてください」

「はい」


 私はエルミナーゼさんの手本通りに腰を落とした。

 そして風元素を刀身に纏わせていく、イメージするのは先程見た時に感じたように鎌鼬だ。

 鋭い風の刃を刀身に纏わせていく。

 出来た……!

 そう思った瞬間に大剣を振るった。


 大剣は丸太の中央へと命中。

 しばらくして、ずり落ちるようにして切られた丸太が崩れ落ちた。


「さすがですね……!」


 エルミナーゼさんが感心するようにうんうんと首を振る。

 切られた丸太はまるで大剣で切ったとは思えないような非常に鋭利な切断面だ。

 元素による武器強化は大成功なのだろう。


「大剣術の基本的動作は身についたでしょう。あとは風魔法を教えましょう」

「風魔法ですか?」

「風魔法による戦闘補助です。

 具体的には移動速度が飛躍的に向上します。

 私は『神速』と呼んでいますが、具体的にはいくつかの基本風魔法の応用ですね」


 人差し指を立てながらエルミナーゼさんは説明してくれる。


「まずは先程と同じようにお見せしましょう」


 それからエルミナーゼさんは丸太からかなりの距離を取ると大剣を構えた。

 そして風元素を纏う。


「このようになります」


 そう言った直後、エルミナーゼさんの姿が消えた・・・

 一瞬で丸太へと距離を詰めたエルミナーゼさん。

 それから先程と同様に大剣で一閃。再び丸太はその上部を切り落とされる。

 開放された斬撃の余波か、周囲を暴風が襲った。

 私は髪が乱れないように頭を押さえる。


「組み合わせればこのようになります。

 刀身強化に用いたように、鋭い風の刃を体に纏う感覚が重要です。

 それから前方の風を後ろへと流し込みながら、後ろからも自身の体を押し出すように風の流れを作るのです」


 一閃から姿勢を正すと、エルミナーゼさんがコツを教えてくれた。


「まずは組み合わせではなく、移動だけでも練習してみてください」


 言われて、私は移動だけを練習することにした。

 しかし元素操作して風を起こす動作があまり上手く行かない。

 私は魔法は全くの素人だからだ。

 エルミナーゼさんに質問すると、


「あぁ……そう言えばセーヌさんは魔法が全くの初心者でしたね」


 エルミナーゼさんが「余りにも優秀な生徒過ぎて忘れていました」と思わぬ自身の失態にはっとしながら言ってから続ける。


「魔法は基本的に詠唱魔法と無詠唱魔法の2種類があります。

 しかし実践的なのは当然、無詠唱魔法です。

 ですから身体強化に用いたのと同様にイメージが重要になります」

「またイメージですか?」

「そうです。中には無詠唱魔法を使用しつつも、頭の中では詠唱を行うという方法を取る方もいますが、身体強化と同じく、元素の動きをイメージで強く強化する手法の方が圧倒的に魔法の質が向上するのです」

「魔法の質ですか……」

「そうです。魔法と言ってもなんのことはありませんよ。

 しかし完全初心者となると……そうですね……まずは感覚を覚える為に詠唱魔法の詠唱をお教えします」


 そう言って、エルミナーゼさんが空気の流れを起こす初級風魔法エアストリーム。

 風の刃を作り出す中級風魔法ウィンドカッター。

 この2つの魔法の詠唱方法を教えてくれた。


 まずはエアストリームの詠唱句を唱えてみる。


「風流を我が手に……エアストリーム!」


 小さな風の流れが生じた。


「元素を感知や操作しなくとも、このように詠唱句だけで魔法になるのですね?」


 私が素直な疑問を口にする。

 すると、エルミナーゼさんはふふっとおかしな言葉を聞いたかのように笑った。


「セーヌさんは元素感知と元素操作はSランクですからね。

 加えて身体強化でイメージを用いた元素操作を熟知している。

 後から魔法を習えば、そのような感想を抱くものかとつい笑ってしまいました。

 申し訳ありません」


 エルミナーゼさんが少し頭を下げ、笑いながら私に謝罪の言葉を口にする。


 それから少し練習すると、私は詠唱を頭の中で思い浮かべながら、元素の流れを感知操作することで無詠唱でのエアストリームの発動に成功。

 それから同様にすることですぐにウィンドカッターの無詠唱発動もできるようになると、2つを組み合わせて、身体強化のように風を纏う事ができるようになった。


「それではその状態で移動してみてください。身体強化も同時に行いながらですよ?」


 エルミナーゼさんの指示通り、私はエアストリームとウィンドカッターの魔法を2種イメージで強化しながら展開しつつ、身体強化で移動を始めた。

 凄まじい速度での移動の余波で、周囲の空気が荒々しく吹き荒ぶ。


「それほどできれば十分でしょう」


 エルミナーゼさんの指示で、私は風魔法の移動補助『神速』を終えた。


「私から教えられることはこれくらいです。セーヌさんは本当に優秀な生徒ですね。教え甲斐がありすぎるほどです」


 エルミナーゼさんは最後に私を褒めちぎった。

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