10 大剣を作ります

 大剣制作を開始して1時間、少しは形になってきている。

 まだ指導教官の指定した工程までは進んでいない。

 しかし、周りに並ぶ複数の鍛冶場を見回す限り、研修生の中で遅れているペアであるということもないようだった。

 順調に制作は進んでいた。これも彼女が上級鍛冶職人スキルを持つ故のことだろう。


「ここはどうしたらいいでしょうか?」

「私がやるから任せて! そこはたぶんこうやるんだよ」


 ルマさんが慣れた手付きで、私にはやり方がわからなかった工程をこなしていく。

 私はルマさんと指導教官の二人に教えを受けているような状態で、大剣制作を着実にこなしていた。


 そうこうしていると、指導教官が私達に声をかけてきた。


「お前らが作っているのは大剣か?」


 私達は意外そうに二人で顔を見合わせてから「はい」と簡単に答えた。


「そうか……まさか大剣を作るやつがいるとはなぁ」


 指導教官が自身の頭を掻くようにさすった。

 続けて「どちらが大剣を?」と問われ、私は、


「知り合いの知り合いにエルフの方がいて、その方に教えて頂きました」


 と簡潔に答える。

 すると、指導教官は「ほぉ」と息を漏らしてから言った。


「昔一度だけ作ったことがあってな。それで大剣用の鉄塊も混ぜておいたってわけだ。それで、そちらの嬢ちゃんは経験者の手付きしてるが、大剣を作ったことは?」


 問われ、ルマさんがふるふると首を横に振った。


「そうか、ならば少しコツを教えよう」


 そう言って、指導教官が私達二人に特別に大剣作りのコツ――主に剣の重心位置についてを教示してくれた。

 経験者のルマさんには特にそれが有用な知識だったようだ。


「えっとセーヌさん、それで刃はどうする? 片刃? それとも両刃?」


 私は考えた挙げ句、エルミナーゼさんと同じく片刃にすることにした。

 訓練の際の安全性を考えると、片刃が良いと思ったからだ。


「片刃でよろしくお願いします」

「おっけー」


 そうして大鎚を持って二人がかりで鉄塊を叩き続けること数時間。

 ようやく完成が見えてきていた。


「よっし、んじゃ最後に私が刃付けを教えるよ。見てて」

「わかりました」


 砥石を使ってルマさんが刃付けを行っていく。

 しかし、剣が大きすぎる。一人でやるのは大作業すぎるとのことで、説明を受けてから私も刃付けに加わった。


 そうして、指導教官の「そこまで!」という一声と共に、制作が終わった。

 指導教官が順番に生徒の制作物の出来を見て回り始める。


「はぁーお疲れ様!」


 ルマさんが大きく吐息を漏らしてから、腰に両手を据えて言う。


「お疲れさまでした」


 私が答えると、ルマさんが「良いものできた気がするよ!」と声をかけてくる。


「そうですね。ありがとうございました」


 とペコリと一礼して応じた。


「おぉ、完成したのか大剣。新人にしては凄まじい手際の良さだなお前達」


 私達の鍛冶場にやってきて、指導教官が驚きの声を上げる。


「では見せてもらおうか」


 指導教官が慎重に大剣を精査し始める。

 しかし、私には自信があった。すでに大剣は鑑定済みだからだ。


 【鉄の片刃大剣】。

 鉄製の片刃大剣。

 等級値800。


「こいつはなかなかの業物だな……。驚いたぞ。まさか新人がたった1日でこんな大剣を拵えるとはな……。よし! お前たちは二人共研修合格だっ!」


 指導教官の検分が終わり、私達は見事合格を勝ち取った。

 ルマが「よっしゃあ!」と喜びの雄叫びを上げる。


「ところでなのですが、この大剣。私が買い取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 私が教官とルマに問うと、


「構わないが、材料費は払ってもらうぞ! まぁせっかくのとんだ業物だからな!」


 指導教官はガハハと笑う。


「私は全然構わないよ!」


 ルマさんも快諾してくれて、私は材料費を教官に支払った。


「それでルマさん制作費用なのですが……」


 私がそう聞くと、


「二人で作ったものだからいいよ! 晴れて合格できたしね!」


 とルマさんが言ってくれたので、私は有り難く大剣を頂戴することになった。

 そうして私はついに目的の大剣を手に入れた。

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