9 天才鍛冶職人
私はミサオさんに言伝をして、エルミナーゼさんに大剣が手に入らないので訓練を少し待ってほしいと頼んだ。
それからギルドに来ていた新人鍛冶職人向けの短期研修を受けに行った。
「よーしお前らペアを組め!」
いきなりの指導教官の発言で、強制的にペアを組むハメになった。
こういう時、ここがギルド会館であれば間違いなく、私は全員に鑑定を仕掛ける。
けれど鑑定妨害が非礼だということが気にはなっていた。
が、たぶん西方出身の人なんてそうそういないだろう。
私は余り迷わずに鑑定を開始した。
そうして私は簡単にペア相手を見つけて声をかけた。
「こんにちは」
「あ、ども」
「よろしければペアを組んで頂けませんか?」
「え……? あたしでいいの?」
ペア相手に選んだ人は虚を突かれたかのように意外そうな顔をしている。
「はい。私はセーヌと言います。どうぞよろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、
「えーっと。セーヌさんか。私はルマ! よろしくね」
ルマさんはにかっと笑った。
「よーし組めたな? 今日の研修課題は剣を一本仕上げることだ!」
そう言い放った指導教官だったが、にやりと意味ありげに笑って続けた。
「簡単な課題だと思うだろう? だがこの課題はとてつもなく難しい課題だとだけ言っておく! お手本は俺が見せるし、質問にも俺が答える! 自信がある者は作る剣の種類は短剣、長剣、細剣と各自自由だ! それでは始める!」
指導教官が予め熱せられていた鉄塊を作業台に乗せ、ハンマーで叩き始めた。
私は指導教官の説明を聞きながら、手本を見ることにした。
すると、横からルマさんが小声で話しかけてきた。
「ねぇ、貴方は鍛冶は初めて?」
「はい。初めてです」
「そっか。私は一応経験者なんだ」
私は鑑定で彼女が経験者であることは知っていた。
なぜならば、彼女は研修に訪れている新人職人には相応しくない、上級鍛冶職人Aスキルを保持していたからだ。
しかし、一応とはどういうことだろう?
「一応……ですか?」
「そ、一応。いやまーなんていうか私、この研修受けるの2回目なんだよね」
「それはつまり……」
「そう! 1回目はものの見事に落ちたってわけ」
「それはご愁傷様です……」
そう答えてはみたものの、私は疑問しか持てなかった。
彼女は上級鍛冶職人スキル持ちである。
それも彼女の見た目――10台後半に見える容姿で、だ。
この年齢の人間で上級鍛冶職人スキルを持っているのは天才と言って過言ではない。
どう考えたって普通の新人研修で落ちる――鍛冶職人ギルドに所属できないなんて事は普通起き得ないことだ。
「まぁ剣種が自由な課題だって言うから、刀を作った私が悪いんだけどね……。こっちでは見かけない剣種だからって、まさか打ち合って壊れた方が負けだなんてさ……!」
ルマさんがぽりぽりと右手の人差指で耳の辺りを掻く。
私も『刀』という剣の種類には聞き覚えがない。
さきほどルマさんを鑑定した時に、初級刀剣術というスキルを見かけたがそれに類する武器なのだろうか。
「刀……ですか?」
「うん、刀。東方じゃよくある剣で、切れ味鋭い片刃の剣なんだ。切れ味を増すために薄い部分があったりするから、長剣との打ち合いをさせられたのが原因で負けちゃってね」
ルマさんは、「たはは」と苦笑いしながら再び顔をぽりぽりと掻く。
「なるほど……そのような事もあるのですね……勉強になります」
「うん、それで今回は普通に硬めに長剣を鍛錬しようって思うんだけどさ……どうかな?」
そう問われて、私は「作るのはできれば大剣がいいのですが……」と答えた。
「大剣?」
今度はルマさんが知らない剣種のようだったので、私は彼女に大剣の形や大きさを伝えた。
「へぇ……かなり太くて大きい長剣か……」
つぶやくように言ったルマさんだったが、続けて「それって取り回せるの……?」と私に問うた。
私はそれを聞いて、用意されているであろう鉄塊の中でもっとも大きいサイズのものを一つ、片手で身体強化を施しながら手にとった。
「このように、身体強化を使えば容易に取り扱えます」
研修中故に余り目立たないように腕を下に向けて、鉄塊をふるふるとへらで鍋をかき混ぜるように振った。
「うわ……すっごい怪力だね」
ルマさん以外にも周りにいた何人かが私を見て、驚きの視線を向けてきていた。
「まぁ……使えるっていうなら私は構わないよ。また打ち合いの試験だった時にも強そうだしね!」
ルマさんはかなり乗り気になってくれたようだ。
「では、大剣でよろしくお願いします」
私がそう言って、ペコリと小さくお辞儀すると、ルマさんは「任せといて!」と自身の右腕を軽く2回左手で叩いた。
「ではここまでをやって貰う!」
ちょうど良く区切りがついたらしく、指導教官が声を上げた。
私達はさきほど手にとった、用意されていた中で最も大きい鉄塊を使い大剣作りを開始した。
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