8 ギルドにて――昔のセーヌ
昨日、錬金術を教えてもらいギルドに戻ったときには、
【初級錬金術S】。
錬金術の初歩を習得した証。
初級錬金術を行う際に大幅な技量補正を受けられる。
【中級錬金術S】。
中級錬金術習得の証。
中級錬金術を行う際に大幅な技量補正を受けられる。
【身体強化S】。
元素を使った身体強化が可能になる。
Sランクなので元素量次第で大幅な身体性能の向上が見込める。
これら3つものスキルをSランクで獲得できていた。
錬金術は初歩を習いに行ったはずだったが中級錬金術を。
そして身体強化という、とても有用そうなスキルを習得できていて大満足の結果である。
私は内心とても上機嫌でギルド業務をこなし始めていた。
この調子で今日も一日頑張っていきますっ!
ギルド受付業務を懸命にこなしながらも、私は一つ思い悩むことがあった。
それは――大剣術に使う大剣がない、ということだ。
西方地域ではそこそこ流通量のある武器らしいが、ここセーフガルド周辺では全くと言っていいほどに見かけない武器だという。
リエリーさんと一緒に近くの鍛冶場に聞き込みに出かけるのも一興だが、それにも途方も無い時間がかかってしまうだろう。
私はいっそ、木工職人の先生にお願いして木の大剣を2つ作ろうかと考えていた。
「セーヌどうしたの、珍しくぼーっとして」
よほど私が思い悩んでいたからか、ギルドマスターのホウコさんに声をかけられた。
研修時代からホウコさんは情報通でとても頼りになるギルドマスターだ。
ここは一つホウコさんに事情を話してみることにしよう。
「それがですね……」
私が話始めると、ホウコさんは業務の手を止めないながらも真剣に話を聞いてくれた。
それからホウコさんは右頬に人差し指を当てるように考え込む。
少しの間があって、ホウコさんが「冒険者向け依頼以外でもやる?」と声をかけてきた。
「はい……? 錬金術などもやってはいますが……」
「そうか、ならこれなんかどう?
先程受けた低ランク冒険者向け求人なんだけれど……」
「冒険者向けに求人ですか?」
「そう。冒険者に向いていなかったーって人向けの求人よ。
主に商人や職人職などへの求人が多いわね。
中には行政のようなものもあるけれど……」
と、ホウコさんがちらっと私の方を見てにやりと笑った。
「あぁ……。私がギルド員に勧誘されたときのお話ですか」
「そ」
ホウコさんはそう言って、昔を思い出すように瞼を閉じた。
「あの時のセーヌったら、いきなり高ランクの魔獣討伐に行こうとして必死に皆で止めたのよね。まったく無謀にもほどがある子だったわ……。
それからちょうど良く手元にあったギルド会員の求人をどうかって声をかけて……」
ホウコさんは微笑みながら、私の失敗談を楽しそうに語っている。
「その節は大変お世話になり、ありがとうございました……」
私が無謀とも言える行動をとったのには理由があった。
なにしろ私は昔から
いつも何かを誰かから習っている事から、秀才とも天才とも言われたが、私としては冒険者になるという夢だけはあったし、冒険者としてなんとなくやっていけるだろうという自覚があった。
しかし、それらの根拠のない自信はギルド受付の研修時代に打ち砕かれた。
ある老冒険者は40年で中級ランク止まり。
そして、天才と言われた冒険者が還ってこない。
地元の優秀なパーティーが遠出した時、たかだかゴブリンの群れ如きに敗れ去って敗走してきたという。死者こそいなかったものの、パーティの内一人の男は、「皇帝には絶対に逆らうなああ」などと叫び、精神をやられてしまったらしかった。
そんな事情があり、私は冒険者としては地道に頑張っていこうと誓ったのである。
「まぁそれはそれとして、依頼は鍛冶職人ギルドからよ。新人鍛冶職人の募集と短期研修をしているんですって。セーヌなら鍛冶でも優秀なんでしょう?」
と、研修生の効果のほどを知る我らがギルドマスターは事知り顔で私に微笑んだ。
「はい……やってみないと分かりませんが恐らくは」
「ならこの新人鍛冶職人研修で、その大剣を作ってしまえば良いんじゃないかしら?」
「そうですね、やってみます!」
方針は決まった。
木剣ではなく実剣を作る。
薬草採集や錬金術補助の仕事、それに錬金術だってやっているのだ。
幸いにも良い大剣術の先生に恵まれているのだから、大剣がないならば鍛冶職人としての仕事を学んででも自分で作ればいい。
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