3 草原スライム討伐

 翌朝、リエリーさんが会館に訪れて、依頼掲示板を物色。

 私の元へと携えてきた依頼書には『草原スライム討伐x100』という内容が書かれていた。


「草原スライムの討伐ですか……それは構わないのですが、この量は……」


 心配してリエリーさんの顔色を窺う。


「前回、薬草採集の折に草原スライムの挙動は観察済みです。ですから討伐の際には私がコツをお教えしますよ!」


 リエリーさんが胸を張って言う。

 いきなりの大量討伐依頼に尻込みしていた私だったが、彼女が大手を振るっているので信じることにした。


 前回の薬草採集と同じ草原に到着した私は、リエリーさんから簡単な剣の手ほどきを受けることになった。


「剣は私が用意しておいたこの鉄剣をどうぞ」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って鉄剣を受け取ると、ずっしりとした重みが手の内を支配した。


「私も初級片手剣術程度ですが、草原スライム相手に対する対処をセーヌさんに教えるくらいはなんてことはありません」


 リエリーさんがそう豪語するので、私は水平斬り、縦斬り、袈裟斬りの基本3種を教わった。

 そして最後に、草原スライムが時折放ってくるという大ジャンプからの体当たり攻撃に対処すべくバックステップの技術を教わる。


 リエリーさん相手に練習するうちに、動きは身についたようだ。


「基本3種とバックステップはなんとか教えて頂いた通りにマスターできました」


 私が1時間程度の練習と指南を通してそう答えると、リエリーさんはにかっと笑った。


「さすが研修生S! セーヌさんは教え甲斐がありますね!」


 私を称えるリエリーさんだが、そもそも彼女も教えるのが相当上手い。

 名探偵Sスキルは伊達ではないようで、直感的な事以外の技術的な動きを教えるのはとても分析が良くできているからか、初心者でもとても分かりやすい説明になっていた。

 彼女に師事したのは正解だろう。


「それでは草原スライム狩りを開始しましょう!」


 リエリーさんの掛け声で私達は草原スライムを狩り始めた。


 接近してきての至近距離からの体当たりを避けるのは簡単だった。

 スライムの移動方向に合わせて、水平斬りや袈裟斬りを放っていく。

 スライム達は数度の斬撃で倒れて散っていく。

 そして、数匹の草原スライムを狩り終えたとき、初めての大ジャンプ攻撃が繰り出された。

 私は教えられた通りにバックステップで上空へと舞い上がったスライムの影を回避。

 見事に大ジャンプ攻撃の回避に成功した。

 それからバックステップからの踵を返すような縦斬りをお見舞いしてやった。


 草原スライムは私の一撃を受けて、弾け飛ぶように消滅していく。


「さすがセーヌさんです! その調子ですよ!」


 離れたところで狩りながら見ていたらしきリエリーさんの称賛が聞こえる。

 それから暫く狩りを続けた。


「セーヌさん、私は30匹を狩りました。そちらはいかがですか?」

「私はいまので20匹目でした」


 最初、草原スライムの動きを実際に観察するのに時間がかかった為だろう。

 リエリーさんの方が10匹多くの草原スライムを討伐している。


「目標の100匹まであと半分ですか。そろそろスライムからの取得物を忘れずに集めるようにしましょう」

「取得物といいますと……?」


 リエリーさんは取得物と言うが、私は草原スライムから何かを得られた感触はなかった。


「これですこれ!」


 リエリーさんはそう言って、草原スライム討伐後の死骸とも言える分泌物を指し示した。


「なるほど……このスライムの残骸が必要なのですか?」


 私が首を傾げると、


「錬金術などで使われることが多い素材なんですよ。これの数が依頼達成の為の大体の討伐数として扱われるものでもあるらしいです」


 とリエリーさんが人差し指を立てながら答えた。


「回収にはこれを使ってください」


 私は大量の試験管を渡された。

 事前にリエリーさんが用意してくれていたようだ。


「はい、わかりました」


 その後、私はリエリーさんの指示通りに試験管に分泌物を集めながら草原スライム狩りを続けた。

 そして二人合わせて100匹の討伐を確認すると、試験管を集めてまとめた。


「これで恐らくは依頼達成でしょう。あとは分泌物をギルドで提示すればOKです!」


 リエリーさんの指示に従い、私達は街へ帰った。

 そしてギルド会館で私がマニュアルを確認し、討伐の証としての分泌物をカウント。

 見事に100匹分の草原スライムが討伐された証を私が確認し、依頼達成となった。


「これセーヌさんの分の分泌液です。いやー、セーヌさんがすぐに確認してくれるから楽々ですね!」


 リエリーさんはそう言うが、私は自分の仕事をきっちりこなしているに過ぎない。


「私はこちらが本業ですから……」

「それはそうですが、セーヌさんの片手剣術も相当なものでしたよ!

また今度もよろしくお願いします!」


 リエリーさんはそう言って帰路についた。


 私はギルド受付業務の終了後、いつものように冒険者カードを水晶に当てて確認した。


 【初級片手剣術S】。

 一般的初級片手剣術習得の証。

 Sランクなので技量値に大幅な補正がかかっているらしい。


 【バックステップS】

 後方へと素早くステップするスキル。


 【初級錬金素材取り扱い師S】。

 恐らくは試験管にスライムの分泌物を回収したときに獲得したスキルだ。

 効果は錬金素材を正しく取り扱えるとだけなっている。


 今日の依頼でも、また新たなスキルが得られた。また明日も頑張ろう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る