第1.3話 企画
昨日、文化祭に出展する2つ目のゲームが決まった。ある程度の内容が決まったら、次は企画書を書くのだが、その前に、顧問である岡林先生にも意見を聞くことにした。
新しいゲームのアイデアができたと聞いた岡林先生は、すぐに第二コンピュータ室に来てくれた。
「なるほど、色を使ってるのはルールとしては分かりやすい、スポイトを使った戦闘アクションってのも、確かに斬新だ」
岡林先生はあごをさすりながら、備え付けのホワイトボードをじっくり見た。
岡林先生に説明するため、昨日出したアイデアをまとめてみたのだ。ペンで大きく書くのは慣れていないため、下手な字から顔を背けたくなる。次から秋晴さんにまかせて、誰もいないときにこっそり練習しよう。
「いいんじゃないか、これと前のシューティングゲームを出すんだろ?」
「はい、少し改良してゲームを作れるという証明のために、企画書と一緒に出す予定です」
「そっちのほうも楽しみにしてるよ」
シューティングゲームに関しては、まだ秋晴さんが絵の細かな修正をしただけである。もう少し他の人にやってもらって、意見を聞くべきかもしれない。
何度か頷きながらホワイトボードを眺めていた岡林先生は、ふと思い出したように、こちらの方に向いてきた。
「ついでに、文化祭への申請について、聞いておきたいことはあるか?」
無いんだったらいいんだがと、岡林先生が聞いてきた。確かに、前に聞いたのは、企画書が必要ということだけだった。
秋晴さんのほうを見ると、聞いておきたいということだろう、俺の方を見てうなずいた。
「お願いします」
軽く頭を下げる。
「文化祭用に書く企画書っていうのは、一言でいうと、出展場所をくださいってものだ」
岡林先生はあごをさすっていた手を教卓に置いて、姿勢を崩す。
「文化祭に出展するには、当然どこに出展するかの場所が振り分けられる。これは、基本的には生徒会が決めることだ。これは前にも言ったかな。
そして、出展スペースは限られてるから、審査によって選別する。基準としては、出展する内容を来場者に提供できるのか、つまり、文化祭までにゲームを完成させられるか。今年できたばかりの同好会が企画書だけ持って行っても相手にされないかもしれない、完成したゲームを一緒に持っていくっていうのは、良い考えだ。
そして次に、ある程度の集客が見込めるのか、これはゲームのクオリティにあたる。ゲームの内容を聞いた感じだと、大丈夫だと思うが。
あとは、既に世に出てる物と酷似してないかとか、過激な内容じゃないかとか、まぁ、こんなところだな」
説明を終えた岡林先生は、内ポケットからラムネを取り出し、手に何粒か乗せて、口へ放り込んだ。
「出展スペースは、こちらから希望を出せるんですか?」
岡林先生の説明が終わったところで、秋晴さんが質問した。パソコンが使えるかや、人が来やすい場所かは重要なポイントだ。
個人的には、使い慣れた第二コンピュータ室がいい。
「企画書に希望を書けば考慮してくれるとは思うが、普段使っているところになることが多い」
普段使っているところ、つまり第二コンピュータ室だ。
「他のとこがよかったか?なら、早めに申請したほうがいいぞ、校門近くとかは競争が激しいからな、大きい部活とかちあえば勝ち目はない」
「私はいつものとこがよかったです」
秋晴さんも同じく、慣れたところがよかったらしい。
「俺も第二コンピュータ室がいいです」
とりあえず同調しておく。
これで同好会内での場所決めによる意見は一致したわけである。
「2人だけならこれくらいの広さでちょうどいいかもな」
岡林先生が部屋を見渡す。
2人だけで対応できる範囲は限られる。ゲームの操作方法を教えたり、大きな記録を出したら、景品としてお菓子を渡したりすることもあるだろう。
というか、俺はともかく、秋晴さんは友達と回ることもあるだろうから、そのときは1人でやることになるのか。無人販売のようなシステムが文化祭でもできればいいのだが、学校のパソコンを置く以上、そういうわけにはいかない。昼食やトイレをどうするか、考えなければ。
他に岡林先生に聞くこともなく、ゲーム制作のほうに取り掛かった。
秋晴さんなりのこだわりがあるのだろう、シューティングゲームに使われた絵の修正が続いていた。見た目だけではなく、内容についても改良したいのだが、なかなか思いつかない。
隆也や秋晴さんの友達にやってもらったときを思い出す。
あのときは、隆也と秋晴さんの友達で感想が違った。端的に言うと、簡単か難しいかだ。
普段からゲームをしているかで変わるのは当たり前だが、両方に合わせるというのはそう簡単にできるものではない。
何か参考にできないかと、今までやってきたゲームを思い出してみる。最近は、オンラインゲームばかりをやっている。友達とチームを組んで、全く知らない人達と戦うのだ。
そういえば、普段やっているオンラインゲームは、初心者から上級者まで揃っている。友達とやるときは友達と、1人でやるときはランダムでチームを組むことになる。
当然、初心者と上級者が戦えば上級者が勝つのだが、それでも初心者の多くはそのゲームを続け、中には上級者の仲間入りをする人もいる。
勝敗を決めるという点ではスポーツなど他にも多くあるが、はたして相手に勝ちたいということだけが、オンラインゲームを続ける理由になるだろうか。
そのゲームでは、試合の勝敗だけではなく、敵を何回倒したとか、どれだけダメージを与えられたとかがスコアに出る。そして、1試合で一定以上のダメージを与えることができれば、それにちなんだバッジが貰える。つまり、ステージをクリアする以外にも、自分なりの目的を持ちやすくすればいいのだ。
文化祭に出すシューティングゲームにも、プレイヤーなりの目標を持ってもらいやすいように改良すれば、色んな人に楽しんでもらえるのではないだろか。
いくつかの案が頭の中でくるくる回る。それらはときに衝突し、ときに合体した。ある程度形になってきたところでチャイムが鳴る。
「そろそろ終わるか」
俺は思い浮かんだ案がどこかにいかないように、急いでメモを取った。一時期、すぐに忘れてしまうようなら大したアイデアではなかったと、メモを取らない時期があったが、文化祭に来る多くの人達はそんなに大層なものを求めてはいないだろう。あくまで文化祭のイチブであり、いろんなところを回った人が途中でフラッと立ち寄ってくれればいいのだ。そこに最新とか奇抜とかはいらない。
メモを取り終えた頃、ちょうど秋晴さんもノートパソコンを閉じるところだった。
お疲れ様と互いにねぎらい、また明日と部屋を出る。鍵を閉める前にふと中を見渡した。そして、頭の中で思い浮かべる。俺たちが作ったゲームを、文化祭に来た人達がプレイしてるところを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます