第1.2話 企画
放課後になると、職員室でカギを借りる。第二コンピュータ室へ向かう。すでに秋晴さんが来ていて挨拶を交わす。借りたカギでドアを開ける。定位置に座る。
ゲーム制作同好会を設立、というよりは、ここでゲームを作り始めてからというもの、そんな繰り返しが続いていた。
昨日は、元々作っているシューティングゲームのクオリティアップだけでなく、もう1つ別ジャンルのゲームを作るという話になった。
ここでひとつ、確認しないといけないことがある。
「秋晴さんは文化祭忙しくなるのか?」
秋晴さんは絵が描ける。クラスでの出し物によっては、期待されることもあるだろう。
「チラシのデザイン頼まれたけどそれくらいかな。ドーナツを作って売るんだけど、私は普段お菓子とか作らないから」
味見は得意だけどね、と秋晴さんが笑いながら言った。とりあえず、俺も味見の方が得意だ、と軽く返す。
「もう決まってるんだな」
うちはまだ投票を始めたばかりだというのに。
「景品があるとみんなやる気出すよね。今は小麦粉派とホットケーキミックス派でもめてる。正直、私はどっちでいいから抜け出してきたけど」
放課後でも議論するなんて、なんて気合いだ。いちおう隆也に伝えておくか。もしかしたら役に立つかもしれない。
世間話に花が咲いてしまう前に、ゲーム制作にとりかかる。
とりあえず秋晴さんには、シューティングゲームに必要な絵を描いてもらい、その間に、俺がもう1つのゲームを考えることにした。
シューティングゲーム以外のジャンルで、いろんな層の人が遊べて、そして2人で2ヶ月ほどで作れる、そんなゲーム。
昔からよくあるパズルゲームは最終候補だ。
そういえば、ゲーム系の専門学校では授業でゲームを作るとき、お題が出されるらしい。いったいどこでそんなことを知ったのかは思い出せないが。
「秋晴さん、今ぱっと思いつく単語を出してくれないか」
とりあえず秋晴さんに聞いてみる。
「え、単語?スポイト、とか?」
唐突に聞かれ戸惑いながらも答えてくれた。ありがたいことだ。
見ると秋晴さんは、ペイントソフトを使っていた。マウスカーソルがスポイトの形になっている。すでに描かれた絵の色をコピーするための機能だろう。
ということで、文化祭に出展する2つ目のゲームとして、スポイト要素を入れたものを考えてみることにした。色を吸って何かをするゲームだ。色をキーポイントにしたゲームなら、シンプルで面白いゲームを作れるかもしれない。
とはいえ、スポイトで色を吸って、そこから何をするのかも考えないといけない。何かしらもう1つ、ヒントになるものが欲しい。
「ちょっと出てくる」
気分転換にトイレにでも行こうと、秋晴さんに声を掛けてから部屋を出た。廊下にでも出てみれば、何かヒントになるものが見つかるんじゃないかと思ったのだ。
トイレに行くまで、きょろきょろと周りを見てみる。第一コンピュータ室、階段、エレベーター、掲示板、トイレ。トイレで用を済ませて、第二コンピュータ室に戻る。掲示板、エレベーター、階段、第二コンピュータ室。
「ただいま」
結局すぐに戻ってきた。
アイデアのヒントになりそうなものはたくさんあったが、これといったものは思いつかない。こういう時、才能とか閃きとか、そんなものが欲しくなる。いや、間違えてはいけない。今欲しいのは才能ではなく、ゲームのアイデアだ。
スポイトとコンピュータ室、スポイトと階段、スポイトとエレベーター、スポイトと掲示板、スポイトとトイレ。トイレは違うか。
別にスポイトを使わないといけないというわけではない。
掲示板なら、それだけでもゲームのアイデアになりそうである。例えば、文化祭らしくたくさんの人達が協力して進むゲームだ。もちろん知識が無いので、オンラインゲームは作らない。オンラインゲームじゃなくても、掲示板という名のメモ機能を作っておけば、見つけたヒントを次にプレイする人に引き継ぐことが出来る。そして次にプレイする人は掲示板を見ながらさらにヒントを見つけたり、クリアを目指していくのだ。
しかし、時間を守らずクリアするまで居座ろうとする人が出てきたり、そもそも人が来なくてヒントすら集まらない、ということがあるかもしれない。このアイデアは却下だ。
もう一度、頭の中をかき回してみる。
エレベーター。上下に動く。
色のついたブロックを動かすパズルゲーム。もしくは、もともとあるブロックに色を着けていくパズルゲーム。
いや、エレベーターで考えるなら、アクションゲームという手もある。せっかく絵を描ける秋晴さんがいるのだ。キャラクターやギミックが出てくるゲームを作りたい。ブロックをどうこうするゲームなら、1人でも作れる。
色が動力になるエレベーター。青なら昇って、赤なら下がる。アクションゲームなら、NPCも出てくるだろう。同じ色なら味方、違う色なら敵。もしくは、同じ色の敵は倒せる、違う色なら倒せない。よし、このアイデアならまだまだ膨らませられそうだ。
「秋晴さん、2つ目のゲームだが、色を使ったアクションゲームはどうだろうか」
ゲームを作るのは俺1人じゃない。あくまでこれは1つの案だ。
「色を使ったアクションゲーム?」
顔だけをこちらに向けて聞いてきた。
「ああ、今考えているのは」
頭の中で、先程考えたアイデアを思い浮かべる。口だけで説明するのは難しそうだ。
ペンとノートをスクールバッグから取り出す。ノートを千切って紙を1枚用意した。
「色を使って、敵を倒したりギミックを動かしていくゲームだ。プレイヤーが操作するキャラクターはスポイトを持っていて、そこに色を入れておくことが出来る」
キャラクターに見立てた丸と、スポイトに見立てた棒を描く。卵にストローを刺したみたいになったが、多分伝わるだろう。
「敵やギミックもそれぞれ1つずつ色を持っていて、スポイトに入ってる色と同じ色の敵を倒したり、ギミックを動かすことが出来る。スポイトを使えば、敵やギミックから色を吸い取ることも出来るが、その代わり吸い取った対象は消失する。最終的には、カギになる色を取ってゴールまでいけばクリアだ」
こんなところだろうか。
絵心がないため、手元の紙に描かれているのは、地面に見立てた線と、キャラクターや敵に見立てた丸、スポイトに見立てた棒、ギミックに見立てた四角形が乱雑に描かれている。
秋晴さんは紙をじっと見つめ、しばらくしてから、なるほどと呟いた。
「色を使うっていうのは、パズルっぽくていいと思う。おっきいスポイト持ってるっていうのも、キャラとして覚えてもらいやすそうだし」
秋晴さんからはいい反応を貰えたようだ。
「何か分からないところはあるか?」
自分の頭に思い浮かべたものを他人にイメージしてもらうのは簡単じゃない。ささいなことでもぜひ聞いてほしいところだ。
「だいたいは想像できるかな。けどひとつだけ、色を吸ったら消失するっていうのは、倒すのと違うの?」
もっともな質問だ。
「倒したときは、アイテムを取れたりスコアが加算されたりしようと思う。吸い取った場合は色を吸い取れるだけだ」
そうだ、敵を倒しても消えないようにするっていうのはどうだろうか。死体という言い方はこのゲームには似つかわしくないかもしれないが、倒した後で色を吸い取るというのもいいかもしれない。いや、そういう細かい部分は作りながら調整するべきだろう。最初からアイデアを固めきってしまうと、軌道修正が大変になりそうだ。
「秋晴さんは何か、作りたいものとか無いか?まったく違うゲームでもいいし、このゲームをいじってもいい」
我ながらいいアイデアを思いついたとは思っているが、他にもあるならそれも考慮したい。
「これでいいと思う。面白そうだし。それに、ここで時間かけて完成しなかったら、文化祭に出せなくなっちゃうから」
秋晴さんの表情に少しだけ、闘志のようなものが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます