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 食堂のテーブルには数々の料理が盛りだくさんに置かれていた。夜ならリヴィウスも食欲があるらしく、ほどほどに食べる。そこに瑠依の分も加わったのだが、少し気になることもある。

 

「すごい量ですね! ……お金大丈夫ですか?」

「ラビットホーンの肉渡したらこうなった」

「盗賊騒ぎのせいで肉自体が入手しづらくなっていたらしいので、いたく感謝されました」

「いいんですか? 大事な旅の食料じゃ……」


 昼間の戦闘で倒し、剥ぎ取ったラビットホーン達のウサギ肉を宿に提供したらしい。そのまま自分達の食料になると思っていた瑠依は、思わず質問した。「ウサギ肉」も食べたことなかったので、気になっていたのだが。


「量も多いですし、生肉をずっと持っている訳にもいきません。保存できる拠点があるならまだしも、旅をする身でしたら適度にお金や保存の効く食料などと交換していただいた方が得策ですよ」

「ウサギ肉ならほら、宿屋の親父が隠し持っていた下処理済みだったヤツもらったし」


 アゼルが指す皿にはローストチキンに似た肉料理が乗っている。そういえば日本でもウサギを鳥に見立てて食べていたので、数え方が「羽」だとかなんとかという話を思い出した。座ってちゃんと「いただきます」をしてから食べてみた初めてのウサギ肉は、確かに鶏肉に似た味だと思う。


「お前、倒すときは嫌そうな顔してたのに、普通に食べるんだな」

「ええ、まあ、お肉好きですし……?」


 凄惨なの時は流石に二、三日肉料理は選ばなかったけれども、動物の轢死体の時は……と考えそうになって、頭を振った。美味しそうなご飯を前に思い出すことではない。

 置かれている料理はウサギ肉のローストのほかに、魚料理、ソーセージなどの加工肉、サラダ、チーズにできたてのパンなど、種類様々だ。特に久しぶりの肉系料理は満足度が高い。ジューシーな肉汁が胃袋に染み渡る。


「シバたちがまだって事は、どこかで足止めでも喰らってるのかな」

「盗賊団の活動範囲は移動ルートにもかかっていたようですからね。ですが商船の到着まではまだありましたし、明日ラルートの騎士団が動けば、丁度良いくらいについてくれるのではないでしょうか」


 食べながらアゼルとリヴィウスは今の状況を整理している。門番に聞いたところによると、商船が次にラルートの港まで着くのは予定通りであれば四日後。積み荷などの入れ替えを考慮すれば、出発まで六日もある。二人がそのシバとセシリアという人物と一緒にいた村というのが、大回りしても三、四日くらいで着く想定とのことだから、余裕はあるのだろう。


「観光とかって、できますか?」


 時間があると分かって、瑠依の口からポロリとそんな言葉が出た。本当なら気を引き締めていかないといけないのだろうが、自分の居場所と状況が取りあえず分かり、今後の目的がはっきりして、有力国の王子とその相棒の魔術師が一緒に居るという状態に、なんだか安心してしまった。お腹がいっぱいになってきたのもあるだろう。


「そうですね。この街は交易場としても富裕層の保有地としても名高いですし、見て回るのも面白いでしょう。実は貴女がいらっしゃった〈三ノ神殿〉ですが、今はこの街の神殿に移設されています。見てみれば何か感じるモノがあるかもしれません」

「ずっと気を張っていても、疲れて集中力落ちるだけだもんな」


 そういって快く二人は頷いてくれた。その後街のオススメを宿の人に聞いたり、明日は瑠依もアゼルの朝練に参加したいと約束したりして、食事を終えた。丁度良く腹が膨れて、慣れない移動などもあってか、ベッドに潜ると瑠依はあっという間に眠りについた。

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