35 坂岡視点
丸三日経ち、昨日は早めの夕立まで来たのだ。もうほとんど証拠なんていう物は残っていないだろう。いや、その前に鑑識達が調べている。残っていたとしたら怠慢も良いところだ。
「本当に何もなかったんだな、春日、篠崎。……ここにも周りにも」
「はい! 坂岡さん! ここでは二人が争ったような痕跡しかなく、周りの防犯カメラにも聞き込み調査でも二人の情報がありません。今現在も藤森と瑠依さんは逃走――」
「ああ?」
「ひえっ! 行方不明中であります!」
報告をする春日が坂岡の一睨みで言葉を変えた。瑠依と同じタイミングで四ツ鳴署の刑事課に配属された警察官であるが、胆力が足りない。同じ刑事が語気を荒くしただけでぷるぷる子鹿みたいに震えて、凶悪犯を前にしたときコイツは動けるのか。命を捨てろというわけではない、むしろ動けなければ格好の獲物になって襲われる。市民を守る前に自分が倒れてしまっては意味が無いのだ。今そんなセッキョウをする気はないが。
「池の中まで浚ってみましたが、持ち物など二人に繋がる物は何一つ見つかっていません。彼らのスマートフォンのGPSや通信状況を探ってはいますが、電源が落とされているのかまだ追跡不可。伊藤巡査の警察無線も反応はありません。電話などは……もう警部補方も試していますよね?」
一方篠崎は淡々と捜査結果を伝える。彼は瑠依と同期らしい。彼女より早く刑事になったらしく、しかも普段は本庁の捜査一課で方々の捜査にあたっているせいか現場慣れしているように思える。今回も応援として『世田谷区連続コンビニ強盗事件』の捜査に参加していた。
「ああ。だが電話は繋がんねぇし、メールにも返信はない」
「……チッ、面倒くせ」
仮にも上長である坂岡警部補の前で舌打ちするとは、見込みがある。
「やっぱり、その、あの光が原因で神隠しに?」
「神隠しには同意しないが、……光に覆われた一瞬で居なくなったのはこの目で見ました」
そして今日坂岡が春日と篠崎の二人と居るのは、彼らが坂岡と同じく瑠依の失踪現場に居合わせたからだ。坂岡に比べ距離はあったが、背後から追いかけていた彼らは、瑠依と藤森が白い光に包まれ、その直後には二人が姿形無く消えてしまった瞬間を見た。そんな荒唐無稽な説明をしても、坂岡のように消えた本人とそこまで関係性がなかったためか、翌日には捜査に戻されていたという。ただ可笑しな事を証言したのは同じだ。そんな奴らを上層部はまとめておきたいのか、復帰した坂岡は彼らのチームに交ざることになった。
坂岡は二日間のハンデを埋めるために、まずは彼らの話を聞いていた。
「あともう一つ、気になる点が。これは見てもらった方が早いと思いますので」
篠崎に言われ、坂岡は公園を出た。向かうのはすぐ近くにある藤森の家、の裏手、任意同行時に坂岡や篠崎・春日チームが抑えていたあの通りだった。
「……流石にこの狭さじゃぁ、藤森や瑠依どころかガキだって通れねぇな」
目の前にあるのは家と家の間。藤森が自宅から逃走時、そこにはギリギリ一人は抜けられそうな空間があったはずだ。だが今はどうだ。坂岡達の目の前にあるのは、小さな子供だって通り抜けるのに苦労しそうなほど狭い隙間だった。
「両側の家の住人に話を聞きましたが、まあ当然、ここ二、三日で家を移設したなんてことはありませんでした。建設当時からあの狭さだそうです」
「二人がこの位置を通ったのは間違いないんですよ。反対側、公園の方には地面に二人の足跡(げそこん)や踏み倒された草などがありましたし」
そういって春日がスマホで画像を見せてきた。鑑識が二人が消えた当時に撮影したらしい写真データには、はっきりと二人分の足跡が残されている。
「まさか『魔法使い』サマは、逃げ道を作るのも得意だなんてな」
この一連の事件は不可解なことが多過ぎる。比喩ではなく、本当に七緒達オカルト好きが言っているような「魔法使い」が犯人なのか。そんな考えが坂岡の頭をよぎった。
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