33

 湖港ラルートに来て一番初めにしたことは、領営騎士団の窓口へルラーク村で確保している盗賊団について伝えることだった。

 

「状況把握いたしました! ご協力ありがとうございます。明朝より盗賊団の移送、および街道整備を行います」

 

 ハンスから預かった報告書等を渡せば、あっという間に話が通る。こちらでも改めて報奨金をいただきそうになったものの、それはルラーク村やそのほかの被害に遭った人々へ宛ててもらえるよう辞退した。ルラーク村の人達にはとてもお世話になったのだし、そちらに使ってもらいたい。

 街の中ほどにある領営騎士団の石造りの建物を出ると、日はすっかり山陰に入り暗くなっていた。ルラーク村の夜はカールの食堂を除けば慣れない静寂が感じられたが、こちらは栄えているためかどこもかしこも人が歩いている。騎士団の面々が巡回し、堅牢な塀に囲まれたこの街の治安は良いらしい。

 

「まだ彼らは来ていないようですし、先に宿でも探しましょう」

 

 ラルートへ入る際門衛に尋ねたが、まだアゼル達の仲間であるシバやセシリアという人物が来ているという情報はなかった。電話やメールのような通信手段がないため、待ち人がいる場合門衛などに言付けておくらしい。

 リヴィウスの提案に頷き、瑠依達は門から港へ繋がる大通りから一歩入ったところにある宿で二部屋取った。瑠依としては大部屋で雑魚寝でも大丈夫だったが、改めて考えればスマホや拳銃など彼らにはまだ見せてしまっていいのか判断が付かない所持品もある。彼らも瑠依が”警察手帳”と”特集警棒”以外のモノを所持していると気付いていないのか、特に持ち物検査などは言ってこない。紳士的な提案に感謝しつつ、荷物を置きに瑠依は自分の部屋へ入った。

 

 瑠依の持ち物は今、もともと身についていたボディバッグのほかに布の包みがある。ミアや彼女のお母さんから女性向けの服や日用品と、村のご夫婦から独り立ちした息子さんの服をいただいた。「買い取る」と言う前に笑顔の彼らに送り出されてしまって、お礼もまともに言えなかった。だからここでの報奨金は彼らに渡して欲しい。

 そして服は正直助かった。流石に機能性スーツでも着たきりスズメでは、汗や泥でひどくなってしまう。周りの人にも自分にも悪影響だ。

 食事前に着替えもしてしまおうと、いただいた服を早速広げた。女性物のシャツとふくらはぎくらいの丈のスカート。どちらも草木と花の刺繍が入っていて可愛らしい。男性物はワンポイントで刺繍が入ったシャツとシンプルな焦げ茶色の長ズボンだ。刺繍や織物などが得意な世界なのか、どちらの服も瑠依の目からしたら上質な物であった。

 

 しばし悩んで、やっぱり瑠依は男性物の服を選んだ。普段から瑠依はパンツスタイルだし、可愛らしい刺繍の入った服はどこか照れくさい。シャツならズボンと合わせていけるかと思ったが、汚してしまうのが怖くて、今日は取りあえず仕舞っておく。

 スーツを脱ごうとして、コンコンとドアが叩かれた。慌てて自分のボディバックをベッドの中に押し込み対応すると、宿の女将さんがお湯が入った木桶とタオルを持ってきてくれた。どうやらリヴィウスが頼んでくれたらしい。「騎士団」という、聞く感じ男所帯の中この細やかな気遣いができるリヴィウスは、見た目の良さも合わせてきっとモテるだろう。四ツ鳴署の面々にも見習って欲しい。


 そんな事を思いながら、身体を清め、服を着替える。

 部屋を出る前に念のためスマホを見たが、まだメール送信中ボタンはくるくるしている。諦めた瑠依は再びスマホをボディバッグの仕舞うと、食事のために部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る