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「お二人とも、おはようございます」

「おう」

「おはようございます」


 食堂にはすでにアゼルとリヴィウスの姿があった。違う席に座る意味も無く、瑠依は彼らと同じ席に座った。異世界から来た人間とその保護者達。今日から一緒に行動である。

 アゼルは早くから起き運動でもしていたのか、血色も良く朝から大盛りの食事をもりもりと食べている。

 一方リヴィウスの前にはお茶っぽい飲み物が一杯だけ置いてあるだけであった。漂う香りからしてハーブティー系だろうか。


「リヴィウスさんってそんなに朝強くない方ですか? あ、すみませんミアさん! 私にもアゼルさんと同じ物を!」


 少しぼーっとしているリヴィウスが気になって、瑠依は聞いてみた。なにせ瑠依の周りには朝昼晩問わずがっつり食べる人間が多かった。男性は言わずもがな、女性陣も七緒は大食いだったし、坂岡の妻である比奈は旅館のような朝食を少なくとも瑠依がお世話になっていた時には毎日用意してくれていた。


「そうなんだよ。よくそれだけで済むよなぁ。身体壊さないか?」

「……私としては、朝からその量を食べている方が身体を壊すのではと思いますが」


 アゼルの前には、大きな魚のソテーに目玉焼きっぽいもの、鮭っぽい魚と野菜がたっぷり入ったミルクスープの大盛りにハード系のパン、果物まで付いてきている。瑠依やアゼルとしてはちょうど良いくらいであるが、リヴィウスにはそうでないらしい。


「はい! お待たせしました!」

「ありがとうございます!」


 食事の量についてアゼル達と議論していると、ミアが瑠依の分の食事を運んできた。良い匂いに、はやる気持ちを抑えながら「いただきます」をする。

 にも書いたが、昨日の盗賊団確保に対して村から報奨金をいただいてしまったため、ご飯代宿代は支払えるようになった。カールは別に良いと言ってくれたが、ご厚意としては昨日の宴で過分にいただいてしまっていると思っているので、一日目からの分を含め支払っている。

 未だにぐるぐるしているであろうメールを思いながら、瑠依は美味しいご飯をせっせと口に運んだ。




「――今日から〈一ノ神殿〉へ向かうとのことでしたが、ルートとか教えてもらってもいいですか? いや、わかりはしないんですけど……」


 ベリー系の赤っぽい果物まで食べ終わると、瑠依はさっそくというように切り出した。湖港ラルートの方面へ行く、ということはなんとなく分かるが、その先どうやってその〈一ノ神殿〉とやらまで行くのか。距離はどれくらいか、徒歩なのか何かしらの乗り物なのか、それによって心持ちがいくらか違う。


「まずはそうですね……この辺りの土地からご説明します」


 ミアたちに食べ終わった食器を片付けてもらうと、そういってリヴィウスはテーブルに地図を広げた。

 A2くらいのその用紙には一地方というような規模感で、地形や街、主要な道路などが記載されていた。


「今、私達がいるのが、ここのラトル湖の右側、ルラーク村になります」


 リヴィウスが地図の右下の方にある湖の湖畔にある黒丸を指した。黒丸の下には英語の筆記体のような文字がある。読めないはずなのだが、ぱっと「ルラーク」と頭の中に言葉が浮かんだ。

 不思議に思ってその周辺の文字っぽい物を見ると、読めないのに、「湖港ラルート」やら「トイロヴァーレ村」やら「フェルミルの町」といった言葉がふと出てくる。もしかして日本語が通じるように文字も読めるのだろうか。ただ、取りあえず検証は後にして、瑠依はリヴィウスの説明に意識を戻した。


「湖畔沿いに進むと湖とウィアベル川に接続する場所に『ラルート』という街があります。ここがこの地域の都です。ああ、この地図に載っている範囲はいくつかの国が集まってできた地域になります。アゼルや私が属するサンクレット王国が筆頭国として対帝国等にはとりまとめてはいますが、それぞれ独立しています」


 地図には街や村の名前に比べ、いくつか大きな文字サイズで記された名称がある。今いる地域が「エスドフォート」、上に「フォーベネ」「スーリズ」など。そしてエスドフォート地域から見て左上の半島らしきところに「サンクレット」という記述があった。そしてその半島の根元に〈一ノ神殿〉と書かれている。


「このラルートで、まず我々の仲間と合流させていただきます。シバというとセシリアという女性の二人です。彼らと合流した後、商船でウィアベル川からエスカ海まで移動します。ここが大体五日程かかりますね。そこから海沿いに街道を移動し、こちらにある〈一ノ神殿〉へ向かいます」

「ここからラルートまでは一日くらい、だな。シバ達を待って……あ、そういやぁお前」


 次の街でほかの方と合流する。男性と女性の二人。湖から海までが船で五日。その距離感でほかの道を考えると……と、瑠依が頭の中で距離と時間を計っていると、アゼルが首を傾げながら質問してきた。


「馬って乗れるか?」

「……いやぁ、それはさすがにちょっと」


 必要な心の準備が、考えていたものと違っていた。

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