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 日報

提出日:日本時間 ――年五月十五日

所属・氏名:警視庁四ツ鳴署 刑事組織犯罪対策課 巡査 伊藤瑠依

担当:世田谷区連続コンビニ強盗事件

概要:

五月十三日に行った容疑者・藤森裕樹の任意同行に際し、本官は逃亡を図った対象を追いかけ確保しようとした際、白い光に巻き込まれ昏倒。

その後夜十一時頃に、<一ノ神殿>と呼ばれる場所にて目が覚める。白骨遺体数体に襲われたため避難。神殿の鐘楼にて朝を迎える。

五月十四日、遠方に見えた村へと移動。白骨遺体達は日中(日が当たる場所?)動かない。

同日夕方、ラトル湖畔のルラーク村へ到着。ご厚意により食事をいただき、宿も確保。

同日夜中、村の備蓄庫にて窃盗未遂発生。実行犯二人を確保。同村の治安維持組織へと引き渡す。また彼らが周辺で窃盗・強盗を起こしている盗賊団の一員と判明。

五月十五日、同村に滞在する旅人二人に、上記盗賊団の確保を治安維持組織が依頼する。(こちらの世界の法に則った対応である)

本官は同村にて備蓄庫の管理担当者とともに窃盗の被害状況を確認、整理などを行う。

同日昼、食堂の主人(備蓄庫の管理担当者と同じ)に頼まれ治安維持組織へと昼食を届けに行った際、上記窃盗未遂事件の実行犯一人が留置場所から逃亡を図ったため、再度確保。当人は留置場所の格子を破壊、監視担当者を殴打し、負傷させている。

同時間、盗賊団を確保した旅人達が帰還。盗賊団は急遽修繕した留置場所に収容する。

盗賊団は同村より北にある湖港ラルートの領営騎士団へと身柄を引き渡す予定。

なお、報奨金として三千"フィーロ"受領。(日本円とのレートは不明)

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 目を覚ました瑠依がいつもの癖でスマートフォンの画面をつけると、そんな文面が浮かんだ。


「……まだグルグルしてるんだ」


 寝る前に作成して送信ボタンを押したソレは、送信中を示すが回っている。

 送っているのは坂岡へ宛てた日報、いやただの連絡SOSのメールだった。電話や警察無線は繋がらない。自分を探しているであろう坂岡やみんなに、自分が今居る場所、起こったこと、そして業務報告じみた文面が書ける程度には心身ともに定していると伝えたかったが、どうやらメールでも無理らしい。


 諦めてメールアプリを閉じた。電源まで落とさなかったのは「いずれか送れるかもしれない」という、微かな希望のためだった。幸い充電量はまだある。通信ができない分、あちらの世界に比べて減りが遅いようだった。


「そういえばあの充電器、ソーラー充電も使えるって七緒さん言ってったっけ」


 瑠依はサイドテーブルに置いていたボディバッグから、布製のポーチを取り出した。去年の誕生日に七緒からプレゼントの一つとして貰ったものだった。もし災害に巻き込まれた時に少しでも使えるようにと。ポーチは付属の物がなかったため、七緒が手作りしてくれたらしい。

 ポーチのできばえを自慢していた七緒せんぱいの子供っぽい表情を思い出し心を緩めながら、瑠依はその中に入っている充電器を取り出した。片面にソーラーパネルがセットされたソレを、窓際の朝日が当たっている部分に上手く置いた。


 充電量を示すランプがピカ、ピカ、とゆっくり光る。この世界の"太陽"にも一応、反応するらしい。それに休みの日などには充電していたお陰か、充電量はほぼ満タンのようだった。瑠依が使用しているスマホなら二回ほどフル充電できると謳っていたので、当分は大丈夫だろう。時間はかかるが再充電もできそうで、瑠依はほっと胸をなで下ろした。


 そしてぐーっとお腹が鳴る。

 昨夜も結構食べたのに、いつも通りに食事の催促をする自分の身体に苦笑する。しかし「いつも通り」であることは強みである。

 瑠依は軽くストレッチをしてから身だしなみを整えると、階下の食堂へと向かった。

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