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「な、なんだ、お前かよ。びっくりした」

「ルイさん戻りました。そちらの盗賊ももう大丈夫ですよ」

「あ、えっ……」


 リヴィウスの指摘に、瑠依は自分の下でぐったりとしている男を見て、慌てて締め上げていた襟を手放した。脈や呼吸はある。気を失っているだけらしい。


「お前さん方、大丈夫でぇじょうぶか!?」


 門の外から門番のダビットが駆け寄ってくる。遅れて詰め所の中からハンスも出てきた。ハンスは殴られたのか頭から血を流し、フラフラしていた。そして外の様子を認識すると「よかった」と地面にへたり込んだ。


「どうしたんだ?」

「牢の格子の繋ぎ目が脆くなっていたようで、彼らに昼食を渡そうと部屋を離れた隙にそこを壊されました。もう一人の方は捕まえ中で柱に拘束していますが、彼を外に出してしまいました」


 剣を収めたアゼルがハンスに問いかけた。


「そうか。トーマスはどこに」

「中で横にしています。牢を壊した彼にそのまま後ろから殴られ、昏倒してしまい」

「おお、それなら儂が見ておこう。少しなら回復魔術も使えるでな」

「あ、でしたら後でこちらの方もお願いします。少々、活きが良かったので」


 トーマスの元へ急ごうとするダビットに、リヴィウスは急に出現した人の山から腕のない大男を引き出した。「ひょっ」と謎の声を出したダビットは何度も頷きながら、詰め所の中へと入っていった。


「まずはこの盗賊団達を収容する。牢を強化したい。誰か大工や細工師をしている人は」

「分かりました。すぐに」


 心当たりのある誰かを呼びに行こうとするハンスに、様子を見に出てきた住民が「自分が呼んでくるから」と押しとどめて、村の中心部へと向かっていった。

 ハンスも重傷だ。可能ならダビットの回復魔術というのを受けた方がいい。


 そうして急遽、詰め所の増築が開始された。捕まえた盗賊団を全員牢屋に入れておくには、元々の部屋サイズでは無理があった。

 話を聞きつけたカール達がさらに追加で差し入れを持ってきてくれた。瑠依もミアが心を込めて作ってくれた美味しいサンドイッチで活を入れると、簡単な作業の手伝いや気が付いた盗賊団員達の尋問やらを行った。


 

「それじゃあ、村を救ってくれた英雄達に乾杯じゃ!」


 急ピッチで進められた工事は夕方、日が落ちる前にはなんとか形になり、そしてそのまま村人が集まって一種の祭りのような賑やかさになった。カールの食堂や近所の奥さん方が料理を持ち寄り、男性陣は酒瓶を開ける。壊れた格子を材料にしたかがり火は煌々と燃え、村長とダビットが伝承歌のデュエットを始める。


 瑠依はアゼルやリヴィウス達と一緒に”英雄”として担ぎ上げられ、祭りの最中も工事中の時のように目の回るような忙しさであった。だが高齢者が多いためか人が捌ける時間も早く、開始から二時間も近くなれば、もうほぼ人影はまばらになる。

 丸太を持ってきただけの簡易的なベンチで、瑠依は酒を飲みながら先ほどまでの忙しさを一人噛みしめていた。そんな彼女の元へ二つの影が近付く。


「やっと終わったよ。なんで祭りになるんだ全く」


 そう口でも良いながらも祭りを楽しんでいたアゼルは、瑠依とは別の近くにあった丸太に座った。


「盗賊団の確保、お疲れ様です。これで村の人達の安全が守られますね」

「ルイさんの活躍もあります。はじめに盗賊を捕まえてくれたのも逃げ出した盗賊を捕まえたのもルイさんですし」


 リヴィウスはアゼルとは反対側の瑠依と同じ丸太に腰を下ろし、瑠依に新しくもらって来たという魚の煮込みを渡した。仲が良いのに一緒に座らないのかなと疑問に思いながら、瑠依はありがたく煮込みを受け取った。トマトっぽい野菜か果物が使われたそれは甘さとコクがちょうど良く、疲れていた身体に染み渡っていく。

 「やっと聞ける」とアゼルが言葉を漏らした。


「なあ、お前」

「何でしょうか?」


 周りには彼ら以外誰も居ない。そして瑠依も薄々気付いている。


「お前は異世界からやって来た人間か?」


 確定してしまった事実に、瑠依はゆっくりと頷いた。

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