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 瑠依はあの後、簡単な摺り合わせをしたアゼル達の終わりを待ってから解散した。とはいっても、ハンスとトーマスはそのまま詰め所に、瑠依とアゼルとリヴィウスはカールの宿屋へ戻るため、三人で同じ道を戻ってきたのだが。

 宿屋に入る前、一度近くの湖畔を見ておきましょうとリヴィウスが提案する。盗賊達が来たルートを把握しておきたいとのことであったが、行けば果たして、浜に一隻、イカダと言っても差し支えないほど質素なボートが置かれていた。


「少し沖に出れば村の壁も越えられます。岸近くを渡れば湖の魔物ウィルオウィスプ達も安易に追いかけて来ませんからね」


 湖に浮かぶあの光の球は、湖で死んだモノに廃魔素というモノが絡まって生まれた魔物の一種なのだという。やはり近くで見なくて良かった、と瑠依は内心思った。

 ボートは証拠品ということで一旦リヴィウスが「ハイディン」という魔術をかけて、その姿を隠した。盗賊団捜索に出発する際、彼らに正式な依頼書を渡すため訪れるハンスに引き渡すのだという。

 そして、カールが準備した宿屋の一室で数時間の休憩をした後、アゼル達は盗賊団の捜索に向かった。


 彼らを見送った後、一宿一飯の恩を返すため、瑠依はカールの手伝いを申し出た。それなら備蓄庫の確認を手伝ってくれないかと言われた。

 ルラーク村ではほとんどの人が朝ご飯を自宅で食べるし、魔物のいなくなった湖や山に仕事に行った方達が戻るのも昼以降とのこと。仕事から帰ってきた住民が食堂に集まるまでにする仕込みの時間にもまだ時間があるようだ。昨夜泥棒に入られかけたこともあり、改めてしっかりと確認しておきたいとのことだった。

 正規の鍵で開けられた備蓄庫の中は棚や半地下の倉庫に様々な食料、また日用品が置かれていた。元は小売店だった建物を、オーナーが高齢で引退し、跡継ぎもいなかったことから村で管理するようになったらしい。

 備蓄庫内を順番に確認していく。幸いなことに、先日確認してからカールや住民が使用するために持ち出し記録していた分以外に差異はなかった。 


「そちらの帳簿、盗賊団の捜査で衛兵の方達にお見せした方がいいかもしれません。いつから入り込まれていたのか、裏付けられますから」

「そうか! あとで聞いてみるよ」

「それから、もしまだほかに鍵があったら一緒に出入り口につけておいた方が良いと思います。簡単な鍵でも複数個開けなければならないなれば時間がかかって、泥棒は嫌がりますし。あ、それに建物周りに砂利を敷いて音が出やすくしたり、人感セン、いや明かりをつけておいたりとか。音も光も泥棒避けには有効です」


 防犯対策として思いついた案をひとつひとつ伝えていく。一度空き巣に入られた家は狙われやすく、二度三度と被害に遭ってしまうことがある。そうならないよう少しずつでも変えていければ、と思う。優しくしてくれたカールや村の人たちにこれ以上大変な目に遭って欲しくない。


「なるほどなぁ。鍵以外はすぐにっていうのは難しいがやってみるか。村のみんなにも話しとくよ。……いやー今回は助かったね。坊っちゃんみたいな人が居てくれてさ。うちのカミさんも感心したぜ。それでだな、どうだ、もし予定がなければうちのミアの婿に」


 朝食の時に紹介されたカールの奥さんはおっとり系で、普段は食堂の方には出ずに刺繍や織物などの手芸品を作って家計を支えているらしい。宿の部屋にあった布小物類は彼女の作品だという。

 惚気るカールと照れ笑いする奥さん。仲睦まじいご夫婦の姿は、瑠依の上司夫婦を思い出させる。

 ミアも食堂の手伝いに手芸品の作成など、元気に明るい働き者で、独り身の男性なら誰でも振り返るような女の子だ。

 だから、そろそろ言わないといけないことがある。


「あの、それなんですが……」

「なんだ。やっぱ坊っちゃんくらいの色男ってなると、引く手あまたか?」

「いや引く手はないんですが」

「だったら、ぜひ! ミアはいいぞ。可愛い!」


 年頃で器量良し、自慢の娘の婿取りだ。カールは勢いよくグイグイと来る。壁際まで追い込まれそうになったとき、瑠依はとうとう言い切った。


「すみません! 私は女ですッ!!」

「はっ?」

「えっ?」

「まあ」


 声が重なる。見れば備蓄庫の入り口で嫁候補のミアとカールの奥さんが立っていた。


「……お父さんの、バカッ!!」

「ミ、ミア!? 待ってくれ!」


 唐突に走り去ったミアを追いかけ、カールが出て行った。残された瑠依はカールの奥さんに「そろそろお昼ご飯になりますから」とほわわんと言われた。

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