23 アゼル視点
「なぁんだアイツら、まだ帰ってこねぇのかぁ」
大あくびをしながら山賊の首領が寝床から降りてきた。一緒に落ちてくる空き瓶と酒臭い匂いに、子分達は顔を顰める。彼は昨夜から楽しく飲んだくれていらしい。子分達は戻って来ない仲間にヤキモキしていたというのに。
しかし反抗する者はいない。首領に刃向かって勝てる者はいないと、誰もが知っているからだ。
首領はいつもの席に着き、用意させた
「たくよぉ、しくじったのかアイツ。可愛がってやったのによ」
村に向かった子分のひとりは首領が目をかけていた男だった。粗暴で喧嘩っ早いだが、上の指示にはよく従う。使い易い男だった。
残された子分達は緊張した面持ちで首領の動向を探った。急に機嫌が悪くなって当たり散らかす可能性があるからだ。いち早く逃げなければ、どうなるか分からない。
「まあ、いいか。さあて、今日はどこ
だがそんな子分達の気も知らないで、首領はのんびりと今日の獲物を考える。
街道を行く商人達を襲うにも良いが、あまりそればかりでは芸がない。それにここ数ヶ月は定期的に食料が手に入るような方法を命乞いをする行商人から聞き出した。その行商人の死体はいつの間にかどこかに行ったが、それを気にするほど首領は頭が良くなかった。
そしてしくじった子分達からどういうことに繋がるかも。
「そうだなぁ。今日はアレだ。
「――天声ヨ巡レ
光が走った。直後、突き抜ける激痛に悲鳴をあげることもできないまま、子分達のほとんどは地面へと倒れ落ちた。
「なっ……」
首領はなんとかその一撃に耐えたらしい。だが状況把握ができない間に、ひとつの影が肉薄する。
「オレが来た意味もあって良かったよッ!」
寝起きの悪さそのままに、アゼルは剣を振るった。とっさに首領は腕で防御しようとするも、それは僥倖というように、アゼルはそのまま男の両腕に切っ先を落とした。
「流石に死体よりはマシだよな」
「まあその場合は、不慮の事故ですね」
鉄の匂いが広がる中、リヴィウスが首領に近付いた。入れ替わるように、アゼルは先ほどの雷で気絶はしなかったが動けない子分達の意識を順に闇の中に落としていく。
「うっ、あが」
「正式な治療は街で受けてください。私、そちらはあまり得意ではありませんので」
首領は腕を切り落とされ、その傷口を焼かれた痛みとショックでだろうか、泡を吹きながら気を失った。
「この人数だったら
意識のない子分達を集めたアゼルがリヴィウスに問う。彼はさほど悩むこともなく「ギリギリですかね」と答えた。
「誰かのどこかがなくなる可能性はありますが」
「顔が分かればいいさ」
「わかりました」
アゼルの指示にリヴィウスは従い、地面に〈帰還〉魔術の紋様を描く。これは〈鎖雷〉や〈祝炎〉と異なり物理的な陣が必要となる。また
半刻程度で陣が完成する。その間にアゼルが、盗賊団達を持ってきた捕縛用の綱でまとめ、寝床の探索を行っていた。
「あの変な金属片に盗んだものっぽい物資。こっちの荷物には名前が縫い付けてあるから、被害を確定できるだろ」
「金属片が複数あるということは、ルラーク村以外の村や町にも同じような被害があった可能性もありますね」
「まあそれは、今のオレ達の仕事じゃあない」
夜のことに返すように、アゼルは嫌みったらしく言った。リヴィウスは「そうですね」と至極真面目な表情で返した。
「……とりあえず、帰るか」
「そうですね」
疲れた様子のアゼルを横目に、リヴィウスは〈帰還〉の文言を口にした。
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