22 アゼル視点
「私達が対応しましょうか、盗賊」
行き詰まっていた室内に、相棒の声がよく響いた。
「ちょっ、お前……!」
突然のことにアゼルまで驚き、彼はリヴィウスを皆から引き離し、問いただした。
「おい、どういうことだ。こっちの目的はあのルイって奴で」
「だからです。彼女はきっと、このことが解決するまで動きませんよ」
状況の分からないアゼルにリヴィウスは淡々と説明する。
「彼女の言動を見るに、何かしらの組織で事件対応、もしくは治安維持に従事している方と思われます。〈三ノ神殿〉で見つけた物が彼女の身分証であるならば、かなりしっかりとした公的な組織でです」
アゼルはルイという人物の行動を振り返る。
不審者と遭ったらまず一般人を逃がし、相手を無効化、拘束。すぐに反撃されないよう武器を離れさせるのは手慣れていた。応援を待つ間淡々と男の関節を締め上げていたのは、恐れさえある。
詰め所での事情聴取も無駄に興奮することもなく、事件の状況については慣れたように事実のみを話していた。
鍵開けの技術は奴らの仲間かと疑いもしたが、それならあそこで披露することに利点はないだろう。あの時点で既にルイは村の味方だと思われていたのだから。
「いやー、まあ、お前が言うならそうなのか? てか、え、アイツおん――」
「今、重要なのはそこではありません。ルイ嬢は自分の使命として、この村や周辺の安全が確保されるまで、何らかの方法で携わろうとします。このまま盗賊討伐が済むまでどれくらいかかるか分かりませんが、私達はもう既に時間がかかってしまっています」
リヴィウスの言葉にアゼルは頭を掻いた。確かに今は時間が惜しい。
「……わかった。だが休憩はする。出るのは朝からだ!」
本当なら、夕方頃にはこの村に着き、一息つくはずだった。なのに冬眠明けのように久しぶりの新鮮な生肉を感じた獣や魔物達が行く手を阻み、想定より時間がかかってしまった。戦闘、戦利品の回収、死体の処理を繰り返して、往来がないために閉まっていた門を迂回してこちらの出入り口まで来る頃にはとっぷりと日が暮れ、月の光が優しくアゼル達を包み込んでいたのだ。
「よほどのことがなければ、それほどの強行軍は行いませんよ」
よほどのことがあればするというリヴィウスの言葉を聞かなかったことにし、アゼルは話の見えていない衛兵達とルイに伝えた。
「オレ達は探索にも戦闘にも慣れている。尋問で口を割らせたり応援を待って山狩りをしたりするよりも、早く終わらせられると判断した」
「……そうですね。貴殿達は〈三ノ神殿〉経由で山越えをされていましたし」
〈三ノ神殿〉は信者も信徒も離れたもう廃れた場所だ。だが元聖域の廃魔素を吸収した強力な魔物も多く、街で暮らすような一般人からすれば迂回する、戦闘経験のある衛兵や騎士たちであっても隊を組み心身を削りながら征く経路であった。
その意味を知ってか知らずか、ルイの表情にほんの微かに驚きが混じった。しかしそれを今指摘する意味はない。
「それでは、貴殿達に依頼してもよろしいですか。盗賊団の確保を」
「承った」
正式な依頼書は朝の出発までに用意してくれるという。
「よろしいお願いいたします」
ハンスの言葉にアゼルは頷いた。
そして――。
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