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 さてハンスが見せてくれた人物画だが、例の盗賊団に所属する十数名の人相が描かれているらしい。盗賊団全員の姿ではないともいうが、同じ人相があれば拘束した男達を盗賊団の一員として逮捕し、違う場合は彼らに盗賊団の人物画を見せ、何か知らないかダビットの魔術で読み取るのだという。


 その話を聞きながら瑠依達は奥の牢屋へと向かった。

 部屋を半分にするように木製の格子戸が嵌まっている。その奥に拘束した男達が、手前で衛兵の若者トーマスが男達を見張っていた。


「この中に同じ人相の奴はいるか?」

「えーっと、あ、やっぱコイツ。股間蹴られた方に似てると思う」


 ハンスから渡された人相ファイルを受け取ったトーマスはそれをパラパラとめくり、ひとつのページを示した。確かにそこには目の前で拘束されている人物と同じ顔が描いてある。

 まだ事情聴取が終わってなく、名前を知らない彼だが、股間強打か否かで区別されているのは不憫である。現に彼は恥辱に耐えるようにブルブルと震えていた。


「お前、誰に顔を見られて」


 唸るようにもう一方の男が呟く。だが威圧感のあるそれも今は悪手で、彼も同じ盗賊団の一員であると言っているようなものであった。


「君達、仲間の居場所を話す気は?」

「……」


 ハンスの落ち着いた問いかけに、しかし男達は口をつぐむ。この場ではすぐに聞き出せなさそうだと、瑠依達は一旦牢屋のある部屋から廊下に出た。


「これだと盗賊達の住処を聞き出すには時間がかかりそうですね。山狩りとでもなると、人数が圧倒的に足りませんし」


 ルラーク村には漁師や木こりなど腕っ節の強さが自慢の男達もいたが、やはり瑠依が感じたように高齢者が多く、山狩りには心配が多い。

 湖港ラルートへ応援を呼ぶにしても往復・準備で二日以上かかるため、仲間が戻らず異常を察知した盗賊団に逃げられる可能性がある。そもそもその道中で盗賊に襲われる可能性もあるため、危険が伴った。


「痛めつけて、吐かせますか?」


 そのまま盗賊達の見張りにつく予定のトーマスが、爽やかな声でえげつない提案をする。盗賊達にも聞こえるように言っているので、一種の脅しなんだろう。瑠依に蹴られた方の男は気弱になっているのは「ヒッ」を悲鳴を上げたが、それは体格の良い方が睨んで黙らせていた。

 瑠依にも良い案は浮かばない。断片的に聞いているだけでも、瑠依の知識とここの状況はそう簡単に擦り合わせられない。


 瑠依は盗賊を確保しただけの部外者であるのだから別に考えなくてもいいのだが、市民の安全を守る警察官としてのあり方がここに足を留めさせていた。


「ああ、でしたら」


 唐突にリヴィウスが声を上げる。


「私達が対応しましょうか、盗賊」

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