20

 男達を詰め所の奥にある牢屋にそれぞれ隔離したあと、瑠依たちは休憩室のような場所で事情を尋ねられた。

 若い衛兵は牢屋で男達を見張るため、そこで別れた。ここに来るまでに話をしたせいか、やる気に満ち溢れていた彼は、後で男達を捕まえた方法を教えてほしいと、別途瑠依に頼んでいる。


「――んで、男の一人がもう一度刺してこようとしたとき、坊っちゃんが入ってきてくれたのよ。いやー、強烈な一撃だったね、あの蹴りは」 


 見てたこっちまで冷や汗かいたよ、とまるで武勇伝を語るようにカールは壮年の衛兵に伝えた。それを聞いた見物人のアゼルが化け物を見るような目でこっちを見ているのが解せない。相手を無効化しなくてはいけないとき、ソコが一番ダメージが出るのだ。相手が反撃できないよう、ためらわず徹底的にやるしかない。


「ルイさん、何か間違いはありますか?」

「いいえ、カールさんがおっしゃっていたことと相違はありません」


 壮年の衛兵――ハンスという名らしい――の問いかけに、瑠依は頷いた。


「しかし、よく確保できましたね。失礼ですが、かなり体格差があったとお見受けしますが」

「上手く関節が取れたと申しますか、なんと言いますか……」


 本来なら複数人に対して、いやたった一人だったとしても、他者に害をなそうとする相手に一人で対峙するのは危険極まりない。今回は相手のうち一人を先に無効化でき、もう一人が殴りかかってきたから応戦してしまったのだが、カールを逃したあと自分も距離を取るなり物を投げつけたりして少しでも応援が来るまでの時間を稼いだ方が良い。

、瑠依は相手の腕を取った。


「必死になってしまっていて。優しくしてくださった人達へ危害を加えるかもしれないと思ったら」

(今回は運が良かった)


 そう言い聞かせないと、瑠依はまたしてしまう。


「――では、これで以上となります。お時間ありがとうございました」


 さらに少しの確認がされ、瑠依とカールの事情聴取は終わった。


 「拘束した男たちはどのように調べるんですか?」


 瑠依が聞いたのは単なる好奇心からだった。このルラーク村詰め所のリーダーであるハンスの手腕が気になる。職業病か、見知らぬ場所の取り調べを見てみたかった。

 カールは先に戻ってアゼル達分の部屋を用意するとのことで、意気揚々と帰って行った。久しぶりに宿屋としての仕事ができるためか、不審者に襲われたというのに、足取りが軽い。

 そのような雰囲気がハンスに伝わったのか、彼は苦笑しながら本棚からひとつのフォルダーを取り出した。

 中身を見せてもらうと、そこには精密に描かれた人物画が束ねられていた。


「……すごい綺麗」

「転写魔術の応用による似顔絵ですね。対象の人物を見た方の記憶の魔力を写し取って、紙に転写しています。それでも、ここまで細かい描写を出せる方はなかなか居ませんが」


 瑠依が人物画に目を取られていると、リヴィウスが作成方法を教えてくれた。正確なことはわからないが、脳波を読み取って絵を映し出すような、そんなすごい技術らしい。もっとも術者の技量や見ていた側の思い込みで精度は異なるというのだが。


「ええ、盗賊団による被害が酷く、生き残った被害者から情報を得るため、領群でも指折りの転写士に来ていただたときいております」

「これって、捜査資料、とかですか? その、一般人に見せても……」

「食堂や商店の店先にも置けるよう配っている物ですので、これくらいは問題はありませんよ」


 ハンスは朗らかに言う。先ほど初めて会ったときは状況のせいか幾分ピリピリしていたが、今は大分打ち解けてくれていた。

 そういえば瑠依はこの村に身分証なしで入ってきたのに、この村の警備の本元に来て大丈夫なのだろうか、と一瞬焦ったものの、「ダビット翁が入れたのなら大丈夫でしょう」と言う。瑠依を村の中へと案内したダビットは村唯一の魔術師であり、瑠依が危険人物かどうかの確認の魔術は、声をかけられた時点で終わっていたらしい。


「夜はぐっすり眠ってしまうので、その間は身分証の確認をさせていただく場合もありますが」


 瑠依は例の盗賊団に襲われ身分証も何も奪われた、という話で彼らには伝わっているらしい。瑠依はボディーバックなどでスーツ内に隠れていたはいえ、いくらかの荷物を持っていたのだが。

 だがこれ以上は藪蛇になりそうなので、静かに流しておいた。

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