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「お前は――」

「はっ! 警視庁世田谷四ツ鳴署刑事課所属、伊藤瑠依巡査であります!」


 戦士風青年の低い声音に、瑠依は反射的に敬礼をした。彼はまだ若く見えるが、捜査現場にやってきて状況を聞いてくるタイプの偉い人っぽい雰囲気と貫禄を感じだのだ。 


「けーしちょー……? いとうるいじゅんさ?」

「あ、いえ、えーっと、警視庁の辺りは職場で、巡査は役職名で……。ルイ、伊藤瑠依が名前です!」


 首を傾げる戦士風青年に瑠依は慌てて訂正する。思わずフルで答えてしまったが、警視庁や巡査が通じそうにないここでは無意味だろう。とにかく「ルイ」と、自分の名前を伝える。


「ルイ、か。まあいい。ちょっと話があるからツラ貸せ」


 一体どこのヤンキーだ。

 先程の貫禄とは一転し、言葉遣いは粗暴だった。

 染めたより自然な黄み寄りの茶髪キャラメルブロンドにゴツめのイヤリングやその他装飾品が相まって、深夜のコンビニ前でたむろしているちょっとヤンチャな子達を思い出した。


「お前、何ニヤニヤしてっ」

「名乗っていただいたのに、我々も返さなければ失礼ですよ」


 戦士風青年を遮るように、今度は魔法使い風青年が声を出した。落ち着いた声だが、何にも遮られることなくスッと耳まで届く。


「連れがすみません。わたくし、リヴィウスと申します。こちらはアゼル。二人――もう二名居ますが今は別行動です――で旅をしながら、魔物退治を主に請け負っております」


 ローブのフードを外しながら、魔法使い風青年・リヴィウスが告げる。縁なしの眼鏡に青灰色ブルーグレーの髪を緩く束ねた、理知的な顔立ちがあらわになった。


「ま、まもの……?」

「なんだ、知らないのか?」

廃魔素レフトヤーンに当てられて変異した獣やのことですよ。凶暴化して、人や家畜などを襲うので、倒さないといけないのです」


 瑠依の呟きに戦士風青年のアゼルが驚いたように声を上げた。それに対し、リヴィウスが説明する。

 骸骨……、瑠依の頭の中にあの廃神殿で対峙した”動く白骨遺体スケルトン”達が浮かんだ。アレらを退治する職業の方々が居るのか。

 瑠依は大変そうなその業務に対し、「お疲れ様です」と頭を下げた。

 顔を上げるとリヴィウスと目が合う。二人ともタイプは異なるが、外国人俳優のように端正な顔立ちだ。何かを見定めるような視線なので、トキメキも恥じらいも別にないが。


「とにかく、聞きたいことがあるんだ」

「えっと、それならまず先に衛兵さんたちに状況をお伝えしてからでも大丈夫ですか?」


 瑠依も一緒に連れて行きたいのか、衛兵たちも男たちを拘束しながら話がまとまるのを待っている。


「ええ、もちろんです。最優先されるのはそちらですので。それと、私達も一緒にお伺いしてもよろしいですか? こんな時間ですからご近所の迷惑にもなりますし、店主なしに宿屋に入るのも気が引けますしね」


 衛兵たちを見ると、彼らは問題ないと頷いた。


「じゃあ、お待たせしました。お願いします」


 瑠依は備蓄庫の鍵をかけ直した。その間に、アゼルとリヴィウスが周りに不審者の仲間が残っていないかどうかの確認をした。 


「そういえば……カールさん、腕は大丈夫ですか? 確かあの男達に切りつけられてたんじゃ」


 一番はじめに男達と対峙したとして詰め所まで同行するカールに、瑠依は慌てて声をかける。当の本人はケロッとした顔をしていた。まるで忘れていたかのように。


「そこの魔術師の兄ちゃんが治癒術で直してくれたんだよ。もう痛くもかゆくもねぇぜ」


 そうして見せてくれたカールの腕は、服こそ切られたままで血も染みついているものの、肌自体は綺麗で問題なく動く。

 魔術師、治癒術……リヴィウスの格好や職業から予想はしていたものの、人から事実として聞かされる衝撃に、唾を飲み込んで抑えた。


 例えば彼ならば、コンビニの中を水で満杯にしたり、牛丼店を切り刻むことができるのだろうか。

 ふとそんな考えが頭をよぎった。

 だが、ここは瑠依の知る世界とは異なるようだ。関係性に確証がなく、右も左もわからぬ場所で突き進んでも良いことはない。


 まずは目の前にある事件の解決を。

 そう思い、瑠依は衛兵たちの詰め所まで向かった。

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