18

「備蓄庫の鍵? ああそれなら前に倉庫の中身が盗まれたことがあって……それからはほら、こういうのを使ってる」


 頭上にハテナを浮かべたカールは、しかし瑠依の雰囲気に飲まれたのか、食堂の近くにあるひとつの建物に近付いた。彼が示す建物の扉には大きな南京錠が下がっている。


「鍵はカールさんが持っているんですか?」

「あ、ああ。管理してるのは俺だし。あと村長も持ってるな」

「その鍵をお見せいただいても」

「これだが」


 そういって胸元からネックレスのように下げていた鍵を取り出す。鍵山が片方だけにある、いわゆるピンシリンダーキーだ。

 瑠依はひとり頷くと、路地に転がしたナイフの元へ向かった。謎の金属櫛がついた方だ。

 それをハンカチ越しに拾うと、カールに「鍵を外してみても良いか」と尋ねた。


「別にいいけどよぉ。この鍵でか?」

「いえ、こちらので」 


 瑠依が見せた金属櫛に、カールもほかの人たちも変な顔をした。たしかに瑠依も知らなければ同じ顔をしていただろう。

 許可はいただけたので、瑠依は南京錠に近付いた。

 南京錠はしっかりと閉まっている。押しても引いてもがちゃがちゃ揺らしてもびくともしない。その鍵穴に、瑠依はナイフから外した金属櫛を差し込んだ。

 金属櫛は普通の鍵のようにスムーズに奥まで進む。ハンマーがあればやりやすそうだが流石にないので、近くにあった石を手に取った。そしてカンッと石で金属櫛に衝撃を与え、回した。

 カチャリ。

 音がして南京錠が外れた。


「えっ……」

「バンピングという手法です。古い――いえ、こういった鍵の時によく使われます」


 ピンシリンダーは内筒と外筒にあるトップピンとボトムピンを鍵で正しい位置に押し上げることで引っかからず回すことができる。そのため何らかの方法でボトムピンに衝撃を与えトップピンを跳ねさせることができれば、不正に開けることができた。


 以前連続空き巣が発生した際、狙われたのは同じようにピンシリンダーが使われた家ばかりだった。そして捕まえた犯人は、この金属櫛のような特殊工具を持っていた。

 それで鑑識から「後学のため」と開け方を教えてもらった瑠依は、あの男から取り上げたナイフにソレがつり下がっていたのを見て、妙な感じを覚えたのだ。


「カールさん、備蓄庫の中身が減ってきたって言ってましたよね。確証はありませんが、もしかしたら彼らが何か知っているかもしれません。なので事情聴取の際はそれも含めて確認した方がいいと思います」


 瑠依が金属櫛を手に取ってから、拘束された男たちはそわそわと落ち着かなそうにしていた。

 そんな彼らを見据えながら、瑠依は衛兵たちに進言する。 


「確かに承りました。確保も含め、ご協力ありがとうございます。貴殿たちもこちらに着いたばかりでしたのに、お手を煩わしてしまって」

「あー、まあ……」

「問題ありません。何事も無く良かったのですから」


 壮年の衛兵が瑠依のほかに、彼らと一緒にこの場に来ていた男性二人に声をかけた。

 瑠依も衛兵の言葉につられ、彼らを見た。そして彼らは違う、と直感した。

 一人は使い慣らされしなやかになった革鎧に実用性を重視した無骨な長剣、もう一人は細かな刺繍に彩られたローブコートにフードを被り、三十センチほどのなめらかなきのぼうを携えている。


「こっちも気になることがあったからな」


 明らかに戦士風な青年に瑠依はギロリと睨まれた。

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