17
物が勝手に落ちた、というには不自然な感じで、瑠依とカールは思わず顔を見合わせる。
「たく、獣がごみでも漁ってるのか? 仕事を増やすのは勘弁してくれ」
カールはそう言って勝手口から外に出る。瑠依も居ても立っても居られず、席を立って勝手口に近付いた。
「――お前ら! そこで何してやが、ぐっ……」
「ッ!? どうされました!」
カールの鋭い一喝は、不穏に区切れる。異常事態と判断した瑠依は咄嗟に状況を確認した。
勝手口は表通りから湖の浜へ抜ける路地に通じていた。扉から数歩浜側へ進んだ所に腕を押えたカールが、その先に二人の男たちが居る。
瑠依は腰のホルダーから特殊警棒を振り出すと、カールを庇えるよう彼の前に出た。
「……刃物を捨ててください」
「なんだこのガキ。ほっせぇ棒持って」
カールを襲ったらしい男は、へらへら笑いながら血が付いた分厚いナイフをチラつかせた。
「ガキは大人しく、家に帰ってママのおっぱいでも飲んでろよ」
その男が更に二人へと迫ろうとしたとき、瑠依もまた彼を「制止無視」と判断し、踏み込みながら特殊警棒を振り下ろした。
カシャンと硬い金属音が響く。一瞬だけ目で追うと、分厚いナイフは隣の建物の壁に当たりつつ地面に落ちた。
そして瑠依は、何が起きたかわからず呆けている男の股間を蹴り上げた。
誰からともなく「ヒッ」という声が漏れる。
「ぼ、坊っちゃん?」
「カールさん動けますか? 誰か捕まえられる人を連れてきてください」
「お、おう! わかった!」
男たちに意識と特殊警棒を向けながら、瑠依はカールに伝える。男たちは刃物を所持し、カールを襲った。危険人物であることは間違いない。
彼は頷き、表通りに向かった。腕を怪我していたように思えたが、股間を庇いながら
「こっ、この野郎……!」
もう一人の男が肩を怒らせ、瑠依に襲いかかる。腕自慢なのか、腰にぶら下げるナイフはそのまま、殴りかかってきた。
瑠依は避ける。だが男は特殊警棒を掴み取った。
「はは! これでもう何もできねーぞ!」
男は楽しそうに嗤い、拳を大きく振りかぶった。動きを封じ、ボコボコにしようとでもいうのか。
瑠依もにっこりと笑い返し、特殊警棒を掴む男の手に自分の手を添えた。
「……ああ?」
そしてダンスを踊るように、ぐるりと回る。
「いッ……!?」
特殊警棒に絡め取られた腕に悲鳴を上げ、男は痛みから逃れようと体勢を崩した。そのまま関節を極め、地面に固定する。男は瑠依より背が高く体格も良いが、コツと訓練を積めばある程度押さえ込める。
男は拘束から逃げようと暴れかけるが、メキメキと腕が音を立てるだけで動くことはできない。
瑠依はその間に空いている方の手で男の腰のベルトからナイフを外した。ナイフの柄から人差し指くらいの金属製の櫛のようなものがぶら下がっている。妙なむず痒さを感じたが、まずは安全確保だ。
先の男はもう戦意を無くしたのか、落ちたナイフを拾うでもなく、ぶるぶると股間を労りながら道の端で震えていた。そちらの男とは反対の方向の路地へ、ナイフを滑らせる。
遠くへ離れたナイフを見て瑠依の下の男は諦めたのか、次第に大人しくなっていった。もっともそれで気を抜くなどということはせず、瑠依は神経を尖らせながらカールが戻って来るのを待った。
「おう! 連れてきた、ぜ?」
「あ、ありがとうございます!」
数分くらいだろうか、カールが表通りから走り込んできた。その後ろに数人の武装した男たちが居る。
心配そうな表情の彼らは、瑠依の明るい返答に戸惑ったようだ。
……さすがにどちらを捕まえた方がいいのかなどは考えていないだろう。
瑠依は武装した男性陣――話に聞く衛兵の若者とその上司らしい壮年の男性だった――に男たちを引き渡した。すでに元気がなく大人しく連れて行かれる男たちに若干引いている。
「この後お時間良いでしょうか? 状況を伺いたく」
「わかりました。……あ、でもひとつ、確認してもいいですか?」
瑠依には気になることがあった。
「カールさん、備蓄庫って、鍵かかってますか?」
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