16
次に瑠依が目を覚ましたのは、夜も更けてきた頃だった。しかも窓が開いていたらしく、なんとなく寒いなぁと思ったのが理由である。
「ってやば。私そのまんま寝ちゃってた……」
スーツのシワは気にしていないが、飯屋前で少し叩いただけで服は泥だらけであるし、食堂で外せなかった拳銃もそのままである。慌てて点検をして問題ないことを確認すると、拳銃は改めてホルスターに仕舞った。
そのほか、食事時には外し、部屋までは手で持ってきていた荷物も問題はない。
窓は換気のため開けていてくれたらしい。瑠依は窓を閉めるために立ち上がった。
「わぁ……」
部屋はラトル湖に面していたらしい。月明かりを返す湖面はきらきらと輝き、美しい。
「あれはなんだろう?」
水面の上を月の光とは違う柔らかな光たちが漂っていた。強いて言うならば蛍であろうか。実物は見たことがないが、テレビなどで見るそれに似ている気がする。
ただしデカい。肉眼でもそれなりの大きさだと感じるのだから、近くで見たら人の丈くらいはあるのかもしれない。
巨大サイズの蛍を想像しようとして止めた瑠依は、静かに窓を閉めた。
「下に行ったら、お水とかいただけるかな」
荷物を片付けたらもう一眠りしようかなと思ったが、喉が渇いていることに気付いた。そういえば料理に夢中で、水はあまり飲んでいなかった。疲れた身体にも美味しい濃い味だったので、喉が渇くのは仕方のないだろう。
念のためボディバッグは掛け布の中に隠し、特殊警棒と拳銃は所持したまま瑠依は部屋を出た。
建物の中は静まりかえっていた。窓から見た周辺の景色も暗かったし、夜は遅くまで起きていない文化なのかもしれない。
階段を降りると、一つの部屋から明かりが漏れていた。覗いてみるとそこは厨房のようで、飯屋の店主カールが調理台の端で何か帳面をつけている。
「すみませーん」
「おお、坊っちゃんか。休めたか?」
「はい! 美味しい料理と柔らかいベッドで寝れて結構回復しました。ありがとうございます!」
「そうかそうか!」
心配そうにしていたカールは瑠依の返事を聞いて破顔した。嬉しそうな彼に再度礼を言い、瑠依は水がもらえないかと聞いた。カールは二つ返事で頷き、瑠依に適当な椅子に座っているように言った。
「夜遅くなのにありがとうございます。仕込みでもされていたんですか?」
「まあそれもあるが、食材やらの整理がなぁ。魚は取れるが、それだけじゃぁ寂しいだろ。うちぁ、この村の備蓄庫の管理も任されているが、全体的に少なくなってきてなぁ」
コップ一杯の水を持ってきてくれたカールは、自身の席に戻って帳面に目を落とした。
「そうなんですね……。すみません、そんな大変なときにご飯いっぱいいただいてしまって」
「いいんだいいんだ。客人にはたっぷりもてなすのがルラーク流だ。それに坊っちゃんの食いっぷりは気持ちよかった! 料理人冥利に尽きるぜ」
「カールさんのお料理が美味しかったからですよ! というかそういえば坊っちゃんとおっしゃってますが、あの、私――」
瑠依はいつの間にか自分が坊っちゃんでこの村に浸透してしまっていることに気付き、慌てて訂正しようとした。
だがそのとき、ガタンという音が勝手口の外から鳴った。
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