13

 先ほどの声をあげた人物が、町の門らしきところから走ってやってくる。

 分厚そうな革のベストと手には長い棒。その先には夕日にキラリと光る金属がついているので、いわゆる”槍”なのだろう。


(町の警備員かな。とりあえず自分は不審者ではないと、伝わるかなぁ……)


 不審者ではないという証拠が全くない。とにかく敵意はないと、瑠依は警棒を腰のホルスターにしまい、両手を挙げようとした。

 しかしそれは全く意味がなかった。 


「こんなボロボロで……。一体どうしたんだべ。もしや盗賊に……ッ」


 すでに警備員、いや町の門番の中で話ができあがっていた。

 瑠依の元へ駆けつけた人の良さそうな顔の彼は、実際その目を潤ませながら瑠依の身体に視線を向ける。それは人を見定める、というよりは、怪我などはないかを確認するようなものだった。 


「トウゾク?」

「最近ラルートとの街道に盗賊が出てるべ。そんな良いべべ着て、お前さん良いところの坊ちゃんだろ? 旅行中に襲われて、荷物も取られちまうなんて、そんな大変な目に遭って……」


 「うちの孫もお前さんくらいの年頃で」と続く門番さんの話を、瑠依は曖昧な笑顔で流した。……嘘は言ってない。 


「あ、あのー、こちらはどちらで」


 孫自慢から娘自慢まで、長くなりそうな門番の話をどこで区切ろうかと、言葉を選ぶ。

 「らるーと」という土地も街道沿いにあるようだが、少なくとも瑠依の地理の知識では知らない名前である。


「ああ、ここはラトル湖畔のルラーク村だべ。今はなんにもねぇべが、魚は旨いべ」

「魚……旨い……」


 人は実に欲望に忠実である。その言葉だけで盛大に瑠依の腹の虫が騒ぎ出した。いや、飴などで最低限のカロリーと糖分を取り、だましだましここまで来たのだ。どうしようもない。 


「ああ、お前さん腹減ってんべか。村に食堂がある。昔は宿もやってたから、泊まるとこもあんべぇ。よしどら、連れてってやんべかな」

「えっそんなっ、今お仕事中ですよね!?」

「いいべいいべ、どうせ誰も来ないんべ」


 門番は堂々と持ち場を離れる。一応門の内側にあった詰め所内へ声を掛けて、若そうな男性の返事はあったのだが、瑠依は身分や持ち物確認のようなものもなく、門番に着いてあっという間に町――ルラーク村へと入ってしまった。

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