11 ???視点

「〈炎ノ祝福ヲ〉ファイアブレス

「っと、これで最後だな」


 日が高くなった頃、廃神殿に二人組の男が現れた。

 無地のローブを羽織った青年が、手のひらサイズの杖を振るいながら呪文ことばを紡ぐ。

 途端、革鎧を身につけた青年の長剣に炎が纏い、切りつけた動く骸骨スケルトンを瞬く間に燃え上がった。灰にまでなれば、もう動き出すこともない。

 燃え盛る炎に気付かないスケルトン達は、派手に動き回る革鎧の青年に向かい、そして返り討ちに遭う。

 あっという間に廃神殿内を掃除した彼らは、寂れた祭壇前に集まった。もう襲いかかってくるモノはないが、注意は怠らない。


「本当にここで合ってるのか、リヴィウス? アンデッド共しか居ないが」

「……ええ、ここにいたのは間違いないはずです。微かに魔力が残っています」

「つっても、誰も居ないし」


 祭壇の床を調べていたリヴィウスと呼ばれたローブ姿の青年は答える。昔なじみの能力の高さを知っている革鎧の青年・アゼルは、それでも納得出来ずにいた。

 この神殿は放棄されてから随分と時間が経っているし、人里からはかなり離れている。戦いながら周辺の様子は確認したが、居たのはアンデッドか森の獣のみで、彼らが探している『人物』がここにいるとは思えなかった。


「一旦何かないか探しましょう。まだ昼間で新しいアンデッドが湧く様子はありませんし、このあとの予定は……」

 いつも淡々と話すリヴィウスが言い淀むのは珍しい。だがそれは仕方なかった。また何も手掛かりなく辺りを彷徨うより、痕跡があったこの場所で何かしらの情報を得たい。

「わかってるよ。おいシバ! 手伝ってくれ!」

「ハーイです!」

 首をかきながらアゼルは頷いた。だが戦闘に特化している彼は探し物が得意ではない。パンはパン屋に。アゼルは外で待機している仲間に声を掛けた。それを聞いた彼は嬉しそうな声を上げ、トテトテとやってくる。

 くるりと回ったが揺れる。


「あー、なんか、あるか探して」

「流石にそれはテキトウ過ぎますよ」


 つぶらな瞳で指示を待つシバに、良い言葉が浮かばなかったアゼルは曖昧に伝えた。それに了承し、片っ端から「何か」を探そうとし始めるシバにリヴィウスは待ったをかける。


「人がいた痕跡があるか探してください。そこまで古くはなくここ数日くらいの、生きた人間の痕跡を」

「ワカリましたです!」


 アゼルの指示に元気に返し、シバはパタパタと辺りを駆け回り始めた。


「お前のは詳細過ぎて怖いわ」

「シバならそれくらいできますよ。まあ、私も一応、……〈痕ヲ探レ〉サーチ


 リヴィウスが唱え終わると、ぞわりとした気配がアゼルを通り越す。特定の空間にある物を把握する魔術だ。物に存在する魔力に反応する為、アゼルも一瞬の違和感を感じる。

 最も今探すのは”それに引っかからないモノ”だったが。


「……左の壁際。五列目辺りに何かありますね」

「あっ、これカモです!」


 信徒が座るベンチの下からシバが這い出てきた。その手には革製の何かが握られていた。

 シバからそれを受け取ったリヴィウスは、再度探知の魔術で”探しているモノ”であることを確認する。


「……そうですね。少なくともです」

「そうか、じゃあやっぱりアイツはここに」

「ただ、持ち主は違うようです」

「はぁ?」


 想定していなかった答えに、アゼルは声を上げた。リヴィウスの手からそれを奪い取り中身を見た彼は、「ああ」と溜め息とも諦めともつかない声を漏らした。

 その中には、金属製の見慣れないエンブレムと硬質でつるりとした薄板に描かれた一人の姿絵がある。だがその人物に見覚えはない。 


「一体どういう……」

「少なくとも、誰かしらがことは間違いないようです。その人物の保護、あるいは確保が第一です」

「……そうだな。この先にあるのはルラーク村だったか」

「ええ、我々の方は擦れ違っていませんし、大抵ならこちらから見える集落に向かうでしょう。居なければその先か」

「シバ、お前は前の村に戻ってこのことを彼女に伝えて、一緒に街道周りでルラーク村の先の町まで来てくれ。念のため村でこちらから人が来ていないか、”引っかからないヤツ”は居ないかの確認も」

「ハイです!」


 そうと決まれば、あとの行動は早い。

 アゼルは予定と仲間との分担を考え、リヴィウスは状況を記した書面をシバに託した。

 元気に元来た道を走り戻るシバを見送り、アゼル達は近くに留めていた馬に飛び乗った。ちなみにシバは馬がなくても充分な速度と持久力を持っている。 


「日が落ちる前には着けるか」

「余計な魔物が出ないよう、女神に祈っておきましょうか?」

廃神殿ここで言われてもなぁ」


 軽口を叩きながら馬を操る。

 暗闇の中にいたような彼らにとって、これは一条の光であった。

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