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――ぐーっ
「はっ!」
情けない音が響いた。
呆けていた瑠依は慌てて辺りを見回すも、そこには誰も居ない。
また気弱になりそうになるも、それよりも「腹が減った」という事実が気になった。
瑠依は鞄の中を漁っると、いつの日かに買った溶けかけのチョコレートを一粒ほおばる。染みるような甘さは、いくらか瑠依の気持ちを落ち着かせた。
「ご飯食べたの、行く前の会議室でだっけ? 時間的には少なくとも一日、二十四時間以上は経ってるし……しかも動けるようにそんなに食べてはいないのに……よくぞここまで」
腕時計を見ると時計の針は”七時”過ぎを指していた。盤面の小窓についた日付は、十四。時計が狂ってないと仮定すれば丸一日、燦々と輝くあの太陽――と仮定する――が日本での動きとずれているのであればプラス十二時間程度の時間、瑠依は何も口にしていなかった。
体力勝負でもある刑事課所属の警察官だ。時間きっかりは無理でも、一日三回の食事は外せない。『腹が減っては戦はできぬ』とはまさにそのこと。いつでも動けて十二分の働きで市民を守る為に、おにぎりひとつでもご飯は必要なのだ。食いしん坊な訳ではない。多分。
絶食ともいえる長時間の空腹は、意識すると酷くなる。チョコレートや飴でカロリーは取れても満腹感はない。それに今の手持ちでは来るも分からぬ助けを待てるほど、保つことはないだろう。
交番勤務時代、異臭騒ぎで連絡があったアパートでの光景を思い出した。狭い、ゴミが積まれた部屋の真ん中で、子供が親の帰りを待ちながら死んでいた。検視の結果、死因は餓死。父親はいなく、母親は煌びやかな格好で繁華街を遊び回っていた。十日以上前に買い与えた菓子パンの空き袋を大事そうに抱え亡くなっていた幼子は、痛ましいとしか言いようがなかった。
瑠依は大人だ。現状から逃げ出せない小さな子ではいられなかった。
それに、やらなきゃいけないことがある。
瑠依は改めて外の様子を確認した。日は高くなり始め、森の中の神殿にも光が差し込むようになってきていた。
「ご遺体……こういうのはアレだけど、”
坂岡に知られたらぶん殴られそうな考えも、一緒にファンタジーゲームで遊んだ七緒なら大いに興味を持ちそうだなと、妙な納得感があった。
「ていうかコレ、もしかしてアレ?」
瑠依の頭の中に、七緒から貸し出された大量の小説や漫画、ゲームやアニメが思い浮かぶ。
瑠依と藤森を襲った突然の光、浮遊感、古い外国の建物のような場所に、超常的に動く
「異世界転生……いや、死んだ記憶はないから異世界転移、っていうヤツ……?」
非・現実的な答えに、瑠依は「いやいやいや」と頭を振った。
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