第6話 魔法


「きゃああああ!!」


「うわああああ!!」


 2人の男女は迷路に入って1分ほどで出てきて撤退する。


 それを見て、俺は満足そうに頷くのだった。


=====


「まさかあのような仕掛けで撃退できるとは……」


 ガイドが理解できない……と言うような声を出した。


 俺が2部屋目にしたことは単純だ。


 2部屋目からは亡霊と泥人間を新たに配置して、スケルトンと共にお化け屋敷と言うコンセプトを果たしてもらっている。


「まあ勇者サイドは恐怖とかは残ってるしな。」


 俺が何もできず浮くだけの亡霊に下した命令は一つのみ。


 侵入者に向かって突っ込み、背後をつけろ。


 これだけだ。


 だが、落武者の首のような姿をした亡霊は、魔王の俺からしてもかなり不気味だ。それが薄暗いダンジョンで自分の顔をすり抜けていったら?その後うしろをついてきたら?


 結果は先程の通りだ。


『ステータス:恐怖を確認。対象は全ステータスが20%の低下』


「おっ。」


ちなみに、駆け抜けようとすれば壁から放たれる矢や落とし穴にはまる事になる。


「でも、冷静だと意外にトラップに引っかからないんだな。」


「木の矢を発射するトラップは発射口が隠せないですし、落とし穴は色が微妙に違いますからね。」


 そう、これらのトラップは3〜5DPのものなので率直に言うとしょぼいのだ。


 だが、常時金欠……もといDP不足の俺はそんないいトラップなんて買えない。

 鉄の矢とか30DPもするんだよ!?


 ちなみに、毒ガス(低濃度)トラップのみ10DPもした。だから墓地に10個しか配置していない。


「ん? あいつらまだ入り口にいたのか。ラッキー、DP入手だぜっ!」


 2人組はダンジョンの入り口から出ていなかった。それどころか、意を決したというかの様に再び中へゆく。


 木の矢だけは喰らうと危ないから避けているが、亡霊や泥人間、角で待ち構えるスケルトンにビビりながら進んでいき、落とし穴に何度か落ちた。


 落とし穴は2M程なので、這い上がることは可能だ。

 今でこそ×付きモンスターだからいいものの、もっと強い敵と戦う事になればその隙は死を意味するだろう。


 這い上がった2人は、たっぷり3時間ほどかけて2部屋目を突破した。


 ……DPうまうま。


 レベル3にもなった2人から得られるDPは1時間に75だ。

 俺からすればうますぎる。


 きっとこの中津川市の攻められてない魔王は今もDP0なんだろうな。


 流石に1度は外の様子を感覚共有で見てるだろうが……


 さて、あの2人はそろそろ帰るかな?


 俺は帰ってくれと念を込めながら再びモニターで様子をみる。


=====


「とりあえず、明日も仕事あるから、次の部屋は見るだけにしておこうか。」


「うん。怖いのはもう慣れてきたよっ」

 

 2人組は俺の最後の砦、3部屋目に足を踏み入れる。


 2人の眼下に広がるのは、モンスターが全くいない墓地だった。


「な、なんだここ……気味悪ぃ」


「い、いきなりモンスターが出たりしないよね?」


 おっと……お嬢さん。それはフラグっていうんだぜ?


 2人が一歩を踏み出したその時──


 向こうに見える出口に巨大な魔法陣が出現する。


「な、何!?」


「魔法陣? ……なっ!?」


 現れた魔法陣から50を超えるスケルトンが出現する。


 そして、2人が驚く暇もなく、2、3秒に一回50のスケルトンが転送され続ける。

 2人が呆けているわずか数秒の間に、スケルトンの数は300に達した。


「に、逃げろおおおお!」


 2人は慌てて撤退する。

 それを見届けて、俺はモンスターハウストラップの放出をとめ、スケルトンたちを収納した。


 

 

 その後、2人は落とし穴を飛び越え、亡霊を無視して、泥人間を殴って破壊しながら2部屋目を駆け抜けていった。



 そして1部屋目。


 迷路を抜けて、出口は目前! というところで、俺はスケルトンを大量に召喚した。

 

 その数、20。入り口を塞ぐスケルトンに、2人は殴って応戦。


 だが、数の暴力が力を発揮し……


 ついに女の腕を殴りつけることに成功した。


「いたっ!」


 とはいえ、×印のスケルトンだ。

 猫に軽く引っ掻かれた程度の痛みだろう。


 ──が。


 その一撃で錯乱した女──結奈は、驚くべき行動に出た。


「ああああ!? ファ、『ファイアボール』!!」


 結奈の手から拳より少し大きい火の玉が打ち出されたのだ。


 それは残り10と少しいるスケルトンに直撃し……


 その全てを爆炎と共に飲み込んだ。


「────は?」


 俺はその威力につい間抜けな顔をしてしまう。


 2秒ほどで消えた火の元で、生きていたスケルトンは、いなかった。


=====


「はあああ!?」


 実の所、俺は魔法とやらをみてみたくて多めのスケルトンをけしかけた。だが、結奈は魔法を使う素振りも見せずに、殴っていたから何か事情があるのかと思ったが……


「どういうことだよ! あんなの使えるならもっと早く攻略出来るし、亡霊も倒せんだろ!」

 

 1発しか撃てないというのかもしれないが、そうとは思わない。


 スキルを使うにはMPを消費する必要がある。

 俺も【威圧】を使った時、3、4回目で頭がクラクラして立ってられなくなる……魔力不足に陥った。


 だが、そんな様子は全く見受けられない。


「マスター、落ち着いてください。あれはただの『ファイアボール』、下級魔法です。」


「はあ!? そんな下級魔法1発でスケルトン全滅かよ……」


 俺は改めて己の魔王としての弱さを自覚した。

 ×はおよそ2ランク分、魔物を弱くする。


 Gランクが×になると、こんなにも弱いんだなと実感させられた。


「……まあ、最初に知れたからいいか。あいつら帰ったし……」


 帰り際に、ついに実際に魔法が撃てるようになったのかと讃える声が聞こえたので、そういうことだろう。


 俺はまた失った配下を補充し、今日の利益、197DPと見てニヤニヤとするのだった。



────その日の夜中。


 コアから侵入者警報が鳴り響く。


「ん? またきてくれたか……」


 再び3部屋目の攻略に乗り出されては、もうガルーダを出すしかないだろう。

 ガルーダ(チキン)に出動待機を命じて、モニターにアクセスする。


 だが、そこには……


「あれ?」


 鬼気迫る表情で足早に魔物を倒す男──雄二の姿があった。

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