第0章裏 復讐者ムラタ

第1話 復讐者ムラタ

神殿の中、大食堂の中央で

昨日、友達が死んだことを聞かされた。

最初は名前が似ているとか、そんな他愛もない下らない話から仲良くなった。

僕の名前はムラタ。


僕達はこの世界に、祝福されたことわり外の神の力と、言葉と名前を持って生まれる。

この世界には、僕達と似た 僕達と違う人間がいる。それは非力で 残虐で とても弱い。だからこそ僕達を恐ろしく感じて、『異界人』と名付けて迫害や攻撃をすることもあると思う。『教会』を組織して迷惑な異界人を取り締まることも…でも弱いからこそ、強い僕達が助けてあげなきゃいけないと

僕は思ってる。


殺された友達の名前はタムラ

タムラ君は確かに嘘つきで、人を騙すことに躊躇ちゅうちょが無い。だからクラスメイトの皆から嫌われていた。でも人を傷つけることだけはしなかった。


この世界こっちに来たとき、僕達に記憶はなく、既にこの姿だった。おおよそ人間で言うところの10代後半~20代前半くらい。

異界人ぼくたちは年を取ることも無い。だから『コミュニティ』に参加した日が誕生日になる。


教会の管理の下、どこからともなく生まれ落ちる異界人達を集める収容所。

コミュニティに収容された異界人達は定期的にコミュニティ間を移ることになる。「結託して反逆とか悪事とかを考えないように」ってね。

1回目の移動の後、『異世界教室このコミュニティ』に来てタムラ君と出会った。

次の年の誕生日のとき、タムラ君がプレゼントをくれた。アクセサリーが壊れて、歪んでしまったお揃いのネックレスだ。それでも僕は嬉しかった。プレゼントを貰ったのは初めてだったから。

ある程度の自由はあったけれど、収容所では許可を得られれば少しだけ外出が許される。そのときに購入したらしい。

 タムラ君は安物だって言ってたけど、僕達は自由にお金を使えないから盗んできたんだってすぐにわかった。盗みはいけないってとがめたら怒って出て行ったんだ。

 それからまた1年の月日が経った頃、タムラ君はボロボロで戻ってきた。あのあと教会の人に盗みがバレて、捕まって拷問されたらしい。帰ってきたタムラ君は昔のタムラ君とは見違える程変わっていた。髪はぼさぼさ、目の下にクマを作り やせ細っていた。

先生や委員長は止めたけど、言い争いが始まってすぐ 僕と話すこともなく飛び出して行った。


その頃からだ。先生が…教室の場所を神殿ここに移したのは。

この前は人形師パペティア君を呼んだりしていたみたいだけど、何をしていたのかは知らない。

―――そして昨日、友達の訃報ふほうを聞かされた。


許せない。確かに盗みを働いたことは良くないことだけど、タムラ君があんな風になるまで拷問する必要があったか?殺す必要があったか?初めて、人間にいきどおりを感じた。


「先生、僕に処刑人のことを教えてください。タムラ君の仇を討ちたい。」



先生 と呼ばれているが僕達とそう変わらない見た目の、眼鏡をかけた男性は

優しい声色でこう答えた。

「いいよ、教えてあげる。…キミには特別授業だ。」



『教会の処刑人』…異界人を恐れる人間達が作った教会の最高戦力。官憲、政治、軍事、宗教…全てに顔が利く教会での最高戦力。教会側は『銀の騎士団』と喧伝している。異界人を殺す為だけに幼少期から鍛え上げた人間側の異能。


数の差を物ともしない 圧倒的な異能を持ちながら、異界人が警戒しあらゆる面でこの世界の主導権を握れていない理由がここにある。それを相手にするのだ。

答えは決まっている

「…覚悟はできています。」




次の日


神殿の外、広い地下空間で先生と向かい合う。そこにもう一人、級友がいる。

鑑定士さん。クラスの人気者に、無理を言って来てもらった。

髪を三つ編みに束ね、お下げにしたメガネの女の子だ。


先生は眼鏡の奥で微笑む柔和な顔をみせて特別授業を始めた。

「身体測定だね。まずは自分を知ることから始めよう。」

「ハイ!」

「よろしく。」

先生は鑑定士さんを一瞥いちべつする。

「はーい。ムラタ君、ちょっとじっとしててね。」

鑑定士さんは他人の身体を見ることで能力の有無や内容、身体能力を計測することができる。喧嘩力比べを禁止しているこのコミュニティでは、危険を冒さず数値で判定できるので みんなに重宝されている。異界人の身体の中に流れる能力の素?や筋肉量を見て判断してるらしい。


鑑定士さんは僕をじっくりみながら僕の周りを一周した。

「…終わりました。身体強化や戦闘タイプの人と比べるのもアレですけど、やっぱり剣聖君や勇者君といったクラスの他の子達より身体能力は劣ります。…というか平均より…かなり下な感じです。この世界の人間と同じくらい。」


「次は能力を見せてくれるかな?」

先生が進める。

僕は胸ポケットから…飴玉を取り出す。その数20個。あきらかに見た目上胸ポケットの容量を超える数が地面に散らばる。

黒い上着の内ポケットへ手を突っ込み、握る。そこからゆっくり引き抜き…鍔の無い刀剣を取り出した。

次に、ズボンの右ポケットへ手をつっこむ。今度は自分の身長より長い、細身の槍を取り出した。

ズボンの左ポケットからは金属のかぎ爪を付けたロープがずるずると50m分。


「…すごいね…何度見ても。」

先生と鑑定士さんが感嘆の声を漏らす。


今度は上着の左ポケットからナイフを取り出し、同じく右ポケットから赤い液体を取り出し、ナイフの一部に赤く吹き付け、に入れる。

すぐさまから赤く着色した全く同じナイフが取り出された。



「…以上です。コレはあんまりカッコ良くないけど、アーモリーと名付けました。

・好きなところから自分のポケットの幅に入るならなんでも出し入れ出来ます。

・出すときは出したいものを考えて、手をつっこめば手に触れます。あとは掴んで引き抜くだけ。

・ポケットがデカければその分出し入れできる物も大きくなって…

・ポケット同士は上着もズボンも何故か繋がってます。

・限界量は試したことないですけど…3年前、意味も無く砂漠へ行って一日中ポケットに砂つっこんでも異常はありませんでした。


…そのあと未だにちょっと砂がついたものが出て来るんでかなり後悔してます。」

鑑定士さんがフフッと吹き出す。


「・生物が入るとそのポケットは普通のポケットに戻って、生物をそこから出すとまた変な空間に繋がります。でも虫の死体はどっかに消えました。」



これが自分が知ってる自分の能力の全て。身に着けたポケット限定だが、無限に物が入る。能力は発展したり強くなったりするらしいが、これ以上の僕の能力は想像もつかない。この世界に来てからポケットがある服が着られなかったから、能力の有無なんて知り得なかった。タムラ君も、能力の発現が教会に捕まった後だったらしいから

僕とタムラ君はみんなから能力名じゃなくて名前で呼ばれる。

服装が自由な異世界教室このコミュニティに来て初めて能力の存在を知った。

絶対的な強者チート能力には程遠いが…これで勝てるだろうか。


「いいね、ムラタ君らしい面白い能力だ。」先生が拍手する。


「その能力、武器庫アーモリーとはよく言ったものだ。ムラタくんがいれば、いくらでも物資や武器が運べる。あとは戦闘能力だね。」


手品代わりにみんなを楽しませてきたこの能力を

処刑人を倒す為に僕は、最大限の殺意を持って使おうと思う。


休憩中

僕は自分の、がついたネックレスを見て、タムラ君を思い出す。…初めての友達。その形見を見て僕は想う。

「…タムラ君。どんな能力が発現したんだろう?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

基礎体力の訓練として日課の走り込みを終えて神殿に帰ってくると

入口の入ってすぐ、神殿内に後から壁を張った右の区画…


教室内でアリスさんが先生に注意を受けていた。

「サオトメさん?無許可で能力を行使したね?」


「知らな~い。アタシじゃなくて別の誰かじゃない?」

「サオトメさん、自分で気づいてないと思うけど…嘘をつくとき自分のことを『アタシ』って言うクセがあるんだよ。」


「え、マジ?ウチそんなクセあった?」

「…とにかく、許可なくあなたの炎を出すことは危険なので今後注意するように。」

「先生~、ちょっと弱火で髪乾かそうとしただけじゃーん」


先生は言い聞かせるようにこう答えた。

「ダメとは言ってないよ。サオトメさんの能力は強すぎるから、使うときは許可を取って。わかったかい?あまり反省が見られない場合はを没収することになるから気を付けてね。」


アリスさんはむすっとした表情でしぶしぶ返事をした。


『星』というのは このコミュニティ独特の制度。このクラスを集団として運用するにあたり、コミュニティの発展や 有益な影響をもたらした生徒に対し、賞与や勲章くんしょうとして体のどこかに刻まれる模様だ。星をかたどった形なのでと呼ばれる。多く貰えると先生から優遇される…といったものは無いが貰えると嬉しいし、強さに関係なくみんなに一目置かれるようになる。星を貰えるように、教室の為にみんな頑張っている。


最低限☆型の模様が一つ、教室ここに所属すると貰える。これは半星はんぼしと呼ばれている。能力が覚醒すればはんぼしは塗りつぶされ、ほしになる。

ちなみに僕はまだ星★☆1つ半。一つは能力覚醒のとき、そして もう半分はかくし芸大会のとき みんなを一番楽しませたから貰えた。

みんなはたまに喧嘩したりするけど、本気で喧嘩するとせっかく集めた星が没収されてしまうので したとしても口喧嘩程度だ。

僕も頑張って強くなって、星をいっぱいもらわなきゃ…!


現在最多の星を持つのが遠隔門ポータルさん。地上の別の場所と神殿をつなげる能力を持つ、代わりの利かない星5つのクラスメイトだ。彼女のおかげで教会の管理下から抜け出しても、追われることなく神殿で隠れて過ごせている。それどころか野山へ行き、狩りをして肉を得ることもできる。教会が幅を効かせるこの世界で唯一、異界人が自由でいられる場所。それが神殿なのだ。


ここでの生活はとても快適だ。時間や日にち、嫌な事も忘れてしまうくらいだった。

神殿のある地下空間内には 澄んだ湧き水が流れており、水に困ることはない。


ずっとこの神殿でみんなと平和に暮らして……いたかったな…。タムラ君のことを思うとじっとしていられない。この生活が恵まれていれば恵まれているほど、快適であればあるほど、あそこまでタムラ君を追い詰めた人間を許せない。必ず報いを受けさせてやる。


そのためにできることは何か。どうにか神殿のみんなに迷惑をかけずに処刑人を倒す方法は?毎日そればかり考える。


「…勇者君…頼みがあるんだけど…いいかな?」

ある日、授業を終えると暇そうな勇者君に声をかけてみた。

肉体を強化できる三ツ星の生徒だ。他にも特別な能力があるらしいけど、今回は別の件だ。


「おう ムラタか、お前から声かけてくるなんて珍しいな。」

「実は…組み手の練習に付き合ってほしいんだ。」

「えぇ~…お前大丈夫か?オレ強いぞ?」

先生に許可を取り、限定的に対人訓練をさせてもらった。このクラスで

一番素手の喧嘩が強いから。少しでも戦闘に慣れておくためにも、勇者君と練習する必要があった。

…結果は酷い物だったけど。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生は僕達と同じくらいの見た目だが、沢山の時を生きて色んな知識を持っている。それを毎日の授業を通して僕達に教えてくれる。


あの日から2か月。

基礎的な筋力トレーニングと戦闘術を訓練しては外の世界で狩りをしてみたり、図書室で教会に関する情報を集めたりした。


ある日、僕は反撃の計画を練って先生に相談してみた。正直、先生に止められるかもしれないと思ってダメもとで計画したものだ。しかし帰ってきた言葉は…


「驚いたね、…てっきりもっと危険なことに手を出すかと思って心配していたけど…杞憂きゆうだったみたいだ。キミを見誤っていた。」先生は今までになく目を輝かせて褒めてくれた。不足している点を先生に添削してもらいながら、計画をより完成度の高いものへ磨きあげる。

そして先生は…

「ただ一つだけ言わせてほしい、死なないようにね。」

最後に付け加えて僕を案じてくれた。


…その計画は、人間の武器を奪うこと。…できれば銃がいい。いかに処刑人であろうと、人間だ。銃で撃たれれば死んでしまうだろう。無駄に強力な武器は必要ない。

遠隔門を使って出られる山を下り、一番近くの街に忍び込んで 手ごろな武器を奪えるだけ奪う。


出発の前日。鑑定士さんから服をプレゼントされた。

「…これは?」

「私が考案して、イトーさんが作ってくれたの。顔を見られないようにした仮面と、夜目立たないように黒い布と革で作ったコート。ムラタ君の服の上から着られるように、ちょっと大きめにできてるから。」


「あと…武器庫の能力を最大限使えるように、隠しポケットが沢山ついてる。設計に時間がかかっちゃったけど、使いこなせたらきっと…チカラになると思う。」

その服は、フードの付いた袖の長い、黒いロングコートだった。見て分かるような部分には前部を閉じたとき、胸から腹部分にかけて6個、横に二つだけ。


しかし袖に手を通すと、袖の内側にもポケットがあることに気が付く。いつでも、どんな体制でもポケットに手が届く作りになってる。また、身体を逸らしたり肘を曲げたりすると、今までに無かったところにスリットが現れてポケットとして使える。

手が込んでいて僕の能力を完璧に理解した作りになっていた。


「ありがとう!必ず使いこなしてみせるよ!」


あぁ…友達から物を貰うのはいつ以来だろうか。凄く懐かしい感覚で、胸にジワリと暖かいものがみる。


決行当日、念のため10日以上生活ができるように食料は多めに用意した。

昨日はポケットの把握と使用用途を考えていた。まだ使い道が分からないポケットもあるけど…

「先生、行って来ます。遠隔門ポータルさん。よろしく。」

…計画は計画。どれだけ綿密に練っても確実に成功する保証は無い。とにかくやれる準備はやった。


ポータルさんが頷くと、人差し指を立てる。徐々に指がうっすらと光り、輝き始めた。その状態で壁に円を描く。光は軌跡となって壁に残り、線が繋がると光の円の中に指をちょんと突っ込む。

…すると円の内から風が吹き始めた。

いつもみんなと狩りに出かける青臭い、山の匂いだ。


気づけば 門の前には先生だけでなく、鑑定士さんや他のクラスメイトのみんなが見送りに来ていた。

「それじゃあ先生 みんな、行って来ます。」


続く。

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