番外話 級友≪クラスメイト≫

砂漠から砂塵さじん舞う、どこかの街。 砂のせいか昼間でも暗く、石と土で作られた壁と 改築に改築を重ねて複雑化した建物の隙間を縫って、入り組んだ狭い路地から秘密の通路を下る。地元の人々ですら脚を踏み入れれば迷い、死ぬまで帰って来られないと言う。

どこまでも暗く、底の見えない石階段が続く。何百年も前に作られた、砂に埋もれていたと思われる地下深く。


 もう不安になってくるほど降りた頃、岩でも金属でもない謎の素材でできた、継ぎ目のない広い空間が現れる。奥は暗闇に包まれているが、床と同じ素材の左右等間隔に並ぶ16本の柱と、石造りの建築様式を取り込んだ建物が、鈍く薄く 緑色の光を発し佇んでいた。そのおかげで夜でもぼんやり明るく、時間の感覚が麻痺する。


 昔、地殻変動によって巨大な空間が作られた。過去未発見の遺跡の上に、今の街が作られ、人々が住み始めた。この街に住んでいる人間に それを知るものは誰一人としていない。荘厳そうごんな神殿の中には 場違いなほど明るい空間が広がっている。どこから持ってきたのかもわからないフローリングの床、火ではない何かで明るく照らされる室内。


酒場のようなカウンターからは 今釣り上げたばかりのような魚がさばかれ、調理されている。色とりどりの飲み物をガラス容器に注ぎ、ウエイターは数人がたむろして談笑するテーブルへ運ぶ。大きな宴会場のような食堂だ。20人ほどからなる人の集まり。


…全員異界人だ。


そのうちの一人、高身長のウェーブがかった髪の男が 眼鏡をかけた男にひそひそと耳打ちで話しかける。


「先生、…タムラに貸していた人形の糸が、不自然に切れました。恐らくは…銀装の攻撃でしょう。状況から見るに…タムラは…」


先生と呼ばれる若い男は 最後まで報告を聞き終えると涙を浮かべ、項垂うなだれた。

「そっか…悲しいね…」


先生が席を立ち、中央の目立つ踊り場に立つと 声を張って皆に知らせる。

「みんな聞いてくれ!悲しいお知らせだ…。タムラ君が今日、教会の処刑人僕らの敵にやられてしまった。彼はよく問題を起こす子だったけど、仲間想いのいい子だった…。今日は彼の為に、祈りを捧げよう。」


空気を含んだふわふわツインテールの女が、濃い紅を塗った口を歪ませ、冗談交じりにほくそ笑む。

「アイツ死んだの?ウケる。自分の思い通りにならなかったらキレる奴じゃん。」


それを耳にすると、すかさず短髪の真面目そうな男が注意する

「サオトメアリスさん!それは言い過ぎですよ、みんな悲しいときにそんなこと言っちゃダメです!時と場合を選んで…」


「うっせぇな委員長!ウチを毎回フルネームで呼ぶんじゃねぇよ!うざってぇ!」

アリスと呼ばれる女性は燃え上がるようにブチギレた。


周囲の人間は思い思いに騒ぎ出す。

久しぶりの仲間割れにテンションが上がる者、ひょうきんな者

失った友に思いを馳せる者


「おっ喧嘩かぁ?ヤれヤれー!とむらい合戦だぁ!」

「意味が違うだろ、弔い合戦は仲間内でやるもんじゃねぇよ」

「ヌぅ!?死者の為に戦い合って、血を捧げる儀式とは違うのか?」

「ヤダ!発想が蛮族!」

「タムラ…かたきはとるぞ…」



ガヤガヤと騒がしくなる神殿内。先生が一言話すと、全員がシンと黙った。

静粛せいしゅくに。いきなりの事でみんな動揺しているね。みんながタムラ君をいたむ気持ち、凄く伝わったよ。今日は授業はお休みにしよう。ゆっくり休んで、タムラ君を想おうじゃないか。」


広い部屋の中で歓声が上がる。

「やれやれ…僕のクラスは賑やかで退屈しないね。」


授業が無いことを喜ぶ他の者達をよそに、先生へ 硬い決意を持って近寄る男が一人。

「先生、僕に処刑人のことを教えてください。タムラ君の仇を討ちたい。」


―――ここは『異世界教室』。


教会指定『要注意異界人コミュニティ』の一つ。


「…いいよ。教えてあげる。」


番外話 完

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