〜桜和 椿(51)〜

 桜和さんは語り始めた。彼女が触れられたくなかった核心を。思いを吐露する姿はいつもの凛とした彼女と違い、弱々しく苦しそうだった。そんな彼女に対して私ができそうな事はやはり浮かばなくて。ただ、小さく蹲るように曲がった背中に手を置くことが私の精一杯だった。友達が苦しそうに話しているのに、何もできない自分の無力さに歯痒くて仕方ない気持ちになるけれど、体を震わせながら辿々しくも本心を話す友達を最後まで見届けたいと思った。

「でも、反抗心でサボったりするけど、それを両親に知られるのは怖かったんです。だから、成績に支障が出るほどサボったりしなかったし、サボっても勉強を怠ったり、サボる以上の悪さは出来なかった。情けないんです。福寿さんは、はっきり言う人って言ってくれたけど、そんなことない・・・。私は、・・私も言える人にしか言えない弱い人間なんです・・・」

 彼女は弱さを語った。桜和さんが学校をサボっていたあの行動は彼女なりの主張だったのか・・・・。あれは、小さなSOSだったのかもしれないと流れる涙を見て思う。


「福寿さん・・・。前に話したことありましたよね」

「え?」

「変わらないこともあるって話」

「あぁ。うん。話したね」

「あの時、変えようとしても変えられない事はあるって話したよね。そうゆう人は世の中にいると思うって」

「うん・・・」

「今もその考えは変わっていないし、実際に現実にあると思ってる。・・・でも、私は違う。私は変われないんじゃない。ただ、変わるのが怖くて自分の思っていることが受け入れてもらえないかもしれない事が怖くて、悟ったふりして流されてるだけ・・・。ただの臆病者・・・。今もそう、進まなきゃいけない事は分かっているんです・・・。でも、傷つくことが怖いの・・・。嫌なの・・・」

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」


 彼女の話の後、また沈黙支配した。街の喧騒だけが、耳に届く。適切な言葉は見つからない。それでも言わなきゃいけないと思った。震える彼女の手を取ると、彼女は私に顔を向けてくれた。

「薬立さん・・・?」

「ごめん・・・」

「え?」

「桜和さんが何かに悩んでるのかもしれないって気づいてた。言い訳になるけど、なんて言えばいいのか分からなかったの」

「それで、なんで、・・薬立さんが謝るの・・・。何も悪くないじゃん・・・。それに、私は薬立さんも騙してたんだよ?散々、説教しといて結局私自身がそうゆう人だった。軽蔑したでしょ・・・」

「そんなこともあったねぇ・・・。もうなんかすごく前のことみたいな気がするね。なんで、か。友達でいたいからかな・・・」

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