〜桜和 椿(48)〜

「もちろん楽じゃなかった。簡単でもなかった。お店をお店として機能させるまで決して苦しい時がなかったわけじゃない。それでも、今は毎日がとても充実しているし、お客さんにもスタッフにも恵まれた。あの時決断して良かったと思っている」


「・・・・。」

「心助さんにそんな過去が・・・」

「私も初めて聞いた・・・」

「その後、ご家族とは・・・・」

「絶縁したよ。関わりは絶ったし、関わるなとも言われたしね。会社にいた頃の同僚と学生時代の友人数人は今も少し交流があるかな。たまにお店にも来てくれる。経営に苦労していた時に手を貸してくれて、頑張っている姿に応援したくなったんだと言ってくれた。今じゃ僕を認めて応援してくれている」

「そうなんですね・・・」

「勘違いしてほしくないけど、決して夢はずっと追い続けるべきだと言っているわけじゃないんだ。生きてたらいろんな選択肢があって、たくさんの道がある。どれを選ぶのが正しいとか、良い悪いは無いんだ。ただ、自分の生きる道は自分の意思で決めた方がいいと言う話なんだよ。僕の夢を無理だと言って退職するのを止めようとした親も周りの人達も、もし僕がその先で挑戦しなかった事を後悔したとしても、誰も責任をとってくれないし、とれない。なら、やはり自分で決めた道を進むのがいいと私は思う。一応君たちより少し長く生きている人間からのアドバイスかな。桜和さんがこの先どんな道を選ぶとしても私は応援したいと思うよ」

 そう言ってオーナーさんは朗らかに笑った。目尻に寄った皺が柔和な彼の性格を表しているようだった。


「私も!応援する!また一緒にお話しよ!」

「はいっ!」

「お話しして頂き、有難うございます」

「いえいえ。桜和さんを頼むね」

「はい」

「では、そろそろ行こう。オーナー行ってきます」

「うん。気を付けてね」

「こっちは任せてっ!」

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

「よろしくお願いします」

「薬立さん!」

 柳さんと薬立さんと一緒にお店を出ると後ろからオーナーさんが声を掛けた。


「はい?」

「また来てね。もちろん。桜和さんと一緒に」

「・・・はい。必ず」

 オーナーさんは僕達を笑顔で見送ってくれた。空は絵に描いたような快晴だ。



「とはいえ・・・」

「急いだ方がいいですよね・・・!」

 話を聞いても心配が消える事はない。早く探さないと、思い浮かぶのは良くない想像ばかりだ。

「落ち着け。」

 そんな僕達を柳さんが制する。

「落ち着けるわけないじゃないですかっ!何かあったり、良くないこと考えてたらっ!」

「冷静にならないと見つかるものも見つからないって言っているんだ。心配性がすぎるぞ。それに、桜和は鹿じゃないだろ。大丈夫だろ。きっと。」

「・・・?」

「無責任なっ!」

「とにかく、何か当てはないのか?」

「当て・・・」

「あと、どこに行くかな・・・?」


『桜和椿が、見つかりました。』

「え?!」

「ん?」

「どうした?」

「いや、ちょっとね・・・ハハハッ・・・」

『見つかったって?!どこに?!』

『場所は______________。』

『・・・!』

「おい、本当にどうした?」

『急いで向かってください。見失わないうちに』

『うん』


「福寿さん?」

「当てがあります」

「?!本当ですか?!」

「場所は?」

「走りながら話します。行きましょう」

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