〜桜和 椿(45)〜
「実は一時間半くらい前まで桜和さんがお店にいたんだよ」
「え?!」
「椿さんはどこへ?」
「何処に行ったのかは分からない・・・。ここで話をした後、お店を飛び出して行ってしまって、追いかけたけど見失ったんだ。ごめんね・・・」
「何を話したんですか?」
「家出をした事とその経緯についてだ」
「経緯っていうのは?」
「それは・・・。どうなんだろうなぁ・・・。言っていいものなのか・・」
「一緒に探すなら、知っておいた方がいいでしょう。知っているかいないかで対応も変わってくるでしょうし」
心助さんは説明をし始めた。
「そうか・・・。それもそうだね・・・。家出の原因は進路についてご両親と揉めたことらしい・・・」
「進路・・・・」
「・・・・。」
進路について・・・。ずっと感じていた。桜和さんが触れられたくないと思っている部分。やはり昨日のあれから引きずって、あの後そんな事が・・・。おそらく桜和さんのメンタルは____________。タイミングが悪すぎたのか・・・・。心配は募るばかりだ。
「その話をして、どうして椿さんは飛び出して行ったんですか?」
「えぇっと・・・。その話を聞いて少しね・・・。桜和さんは進路についてご両親とちゃんと話をしていなかったらしくてね。すれ違いが多かったみたいでそれも今回のことの原因の一つみたいなんだ。そのことについて話をしたんだ。その、柳君が・・・・」
「えっ?」
「何を言ったんですか?」
「しっかりと両親に意思表示をするべきだと言ったんだ。親が子供に向き合う事をしなければいけないのは確かだが、自分でも意思を示さなければ何も伝わらないと。」
「意思表示っていうのは?」
「桜和さんのご両親は桜和さんに医者になることを望んでいるそうなんだ。でも、彼女自身はそれを望んでいなくて。その意思を示すべきだと柳君は話したんだ」
やはり桜和さんは医者になるのが嫌だったのか。何となく分かっていたことだが、それがまさかこんなことになるなんて。
「親子でも伝えようとしなければ何も伝わらない。もし、伝えても理解してもらえないなら縁を切っても自分の意思を通せばいいと伝えた。」
「は?」
「な、何を言ってる_________________」
「なんてことを言うんだ!!!」
思わず口を挟み立ちあがろうとした時、隣に座っていた福寿さんが私よりも先にカウンター越しの柳さんに噛みついた。その顔は人を思う顔だ。人のことを考える事ができる人だ。
「なんてことを言うんだよ!縁を切れとか、今気が沈んでいる人に・・・」
「でも、間違っていないだろう。伝えても受け入れてもらえるとは限らない。親だから子供の意思を必ず尊重してくれる訳じゃない。話してダメなら、決別して自分の道を進むか、今まで通り流されて生きるかだ。」
「だからって簡単にそんなこと言うものじゃない!ましてや、今冷静な判断ができないだろう時に・・・」
「そうです!そんな事、口にする物じゃないですよ!」
「ちょっと待って!二人とも落ち着いて!」
私達が柳さんに掴み掛からんばかりに詰め寄ると間に真奈さんが仲裁に入った。
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