〜桜和 椿(29)〜
私は二人に話した。両親と喧嘩し、家出をした事を。喧嘩というより、私が一方的に怒って家を出たと言った方が正しいか。
「そうだったのか・・・。原因は聞いてもいいかな?」
「・・進路について、揉めました。揉めたっていうのも変かもしれませんが・・・」
「進路・・・。この前は、特に決まっていないって話してなかった?」
「はい。すみません。あの時、嘘を言いました。私の両親はどちらも医療に携わる仕事をしていて、私にも医者になる事を望んでいるんです。でも、私は医者にはなりたくなくて、時々学校をサボってたんです。それが、昨日両親にバレてしまってその時に進路について揉めて家を出て・・・。という感じです」
今まで、人に自分のことを話すのは苦手だった。他人に自分を真に理解してもらうのはとても難しく、それを期待するのはとても疲れる。そんな自分が最近はよく話すようになったなと思う。これは、話せる人、信頼できる人ができたということなのだろうか、それとも、もう諦めてしまってどう思われても良いと思っているからだろうか・・・。
「なるほど・・・。それで医者になりたくないって伝えてご両親はなんて?」
「今までそんなこと言わなかったじゃないか。と言われました。幼稚園の頃から一度だってまともに話し合う時間なんてなかったのに。いつも仕事仕事って言ってろくに家にいなかったのに、こんな時ばっかり親みたいな顔をするなんて都合がいいにも程がある・・・」
「・・・・」
吐き捨てるように話す私に心助さんはなんと声を掛ければいいのか分からないと言った様子だった。
結局迷惑をかけてしまった。でも、今の私は口を開けば恨み言が止まらなくなってしまう。私がこれ以上ここにいても雰囲気が悪くなるばかりだ。
「君は、話そうとしたのか?自分の事を」
「え?」
立ちあがろうとした時、今まで黙って話を聞いていた柳さんが口を開いた。
「君は自分の意思を伝えたのか?と聞いているんだ」
「・・それは・・・」
「医者になりたくないのなら、その意思をちゃんと示すべきだ。君のご両親に。その方法は本当になかったのか?」
「・・・・」
柳さんの問いに私は答えられなかった。言葉に詰まって、頭に思い浮かぶのは言い訳ばかりだった。
「君の言うように、親だと主張するならきちんと子供に向き合うべきだと俺も思う。だが、親だって他人だ。親だから子供の気持ちがわかる訳じゃないし、尊重してくれる訳じゃない。嫌ならば嫌だと伝えなければ何も伝わらない」
「それじゃあ、伝えたって私の気持ちが伝わるとは限らないじゃないですか」
「それは、その通りだと思う。だから、そこからは君次第だ。君はどうしたい?」
「私は、・・・」
「やりたいことがあるなら、ご両親と縁を切ってでも叶えればいい」
「?!」
「ちょっと?!柳君!!」
「縁を切るとか、随分と簡単に言うんですね。そんなこと軽々しく言うもんじゃないですよ」
「じゃあ、どうするんだ?今までと同じように生きていくのか?ご両親に反対されれば、やりたいことも諦められるのか?」
「っ・・・」
「君がやりたいことができないのは本当に環境のせいか?苦しんでいるのは、両親のせいだけか?」
「・・・・」
「君に足りないのは何かを変える方法なのか?」
「・・・・」
柳さんは真っ直ぐ私の顔を見ている。言葉とは裏腹にその顔は私を追い詰めようとするものじゃなかった。
「君はもうそれが何かわかってるんじゃないのか?」
「・・・・。」
また、お店に沈黙が流れる。先のそれとは違い、その空気に気まずさは無かったが、言葉は出なかった。
「柳君。その辺にしておきなさい」
チャリン!チャリン!チャリン!
お店のドアベルが荒々しく鳴った。
「桜和さん!!」
私はまた逃げた。柳さんの話を受け止められなかった。その事実で明らかになる。
私は、弱い。_________________________________
僕は今、走っている。椿さんを探すために。椿さんの分岐点が近付いているとわかった二日後にすぐに分岐点が来てしまった。僕達は少し遅かったのだ。
数時間前_______________。
「っ!・・・・。」
「どうしたの?白君」
「桜和椿の気配が消えかかっています」
「え?!ど、どういうこと?!なんで・・・」
「・・・分岐点。」
「が、もう来たって事?」
「そのせいで魂が不安定になってしまっているのかと。その影響で彼女の気配が追いづらくなっています・・・。」
「そんな、こんな急に・・・」
「とにかく、貴方はすぐ桜和椿を探してください。私は、彼女の気配を追って教えるので。」
「う、うん。分かった!」
「では、現世に送ります。」
「うん!」
こうして僕は、彼女の気配を追ってひたすら走っている。
「はぁっ、はぁ、体力、しっかり、つけとくんだった・・・・」
ただでさえ、運動が苦手なのに走り続けるなんて無理に決まっていた。息は五分も立たず上がり、度々立ち止まっている。
『白君・・・。はぁ、公園着いた。でも、椿さんいる様子ないよっ・・・』
『少しだけ滞在していたみたいです。その後しばらく、・・移動し続けていたみたいです・・・。』
『分かった!っどっち方向?』
『そこの道を右です!』
『分かった!』
僕は再び走り出した。今は、疲労より、僕の体力より大事なことがある。
『福寿さん、補足情報です。』
「っはぁ、何?!」
『桜和椿は家出をしたようで、両親と進路について揉めたことが原因のようです。』
「進路・・・」
『調べた通りのようです。今この瞬間もどんどん気配が薄くなっている。早く見つけましょう。』
『うん!』
『そこをの角を左です』
『うん!』
僕は脚を速めた。
時刻は九時。私は今急足で心助さんのお店に向かっている。昨日、桜和さんに電話をした後もメッセージを送ってみたが既読がつく事はなく、私は返信を待っている間に寝落ちした。
今朝も何度か電話とメッセージをしてみたものの、昨夜送ったメッセージ同様返信どころか既読すら付かなかった。嫌な予感がしてしょうがない。どうしようもなくてこの事を心助さんたちに相談しようとお店に向かって走っていた。三人寄らばなんとやらだ。
目の前の角を左に曲がり、お店が見えるとその前に人の姿があった。
誰・・・?
お店の前にいた人は少し小柄な男性で、幼い顔をしていたがおそらく大学生くらいではないだろうか。
その人はお店の前をうろうろしていて明らかに挙動不審だった。見るに入りたいけど、入れないといった様子で焦っているようでもあった。お店で何かあったのかと彼の後ろからお店の中を覗くけど特に入りづらい何かがあるわけでは無かった。
「どうしよう。どうしよう・・。でも、早くしないと、・・・」
彼はずっと独り言を呟いていて、走っていたのか汗だくで顔色は良くない。とりあえず、中に入ろうと目の前の男性に声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか?中に入った方がいいんじゃ・・・」
声を掛けると目の前の男性は肩を驚かせて振り向いた。
「え?!あ、すみませ・・・。あ・・・」
「え?」
あ?_____________________________________________
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