〜桜和 椿(40)〜

 時刻は朝六時、開店時間は六時半。僕のお店の朝は早い。食材の確認や、店内の清掃、仕込みをしたりと開店時間に向けて一時間半程かけて一人準備する。天気の良い早朝のこの時間帯が私は一日の中で一番好きだ。雨でも曇りでもどんな天気でも好きだが、快晴の空で迎える朝は一日の始まりを感じて身が入るのだ。お店の前を掃除しようとドアを開けると店の軒下に誰かがしゃがみ込んでいた。フードをかぶっていて顔は見えないが若者のようだということは何と無く分かった。隣の僕に気づいていない様子だ。寝ているのかもしれない。夏とはいえこんなところでは風邪をひいてしまうし、すでに具合が悪いのかもしれないと咄嗟に声を掛けた。

「あの、大丈夫ですか?具合悪いですか?」

 肩を軽く揺すると、その人は疲れた様子で顔を上げた。その顔をは僕がよく知る人物だった。

「ぇっ。あっ・・・」

「あれ?桜和さん・・・・?」



「とりあえず、こんな所にいないで中に入りなさい」

 そう言って心助さんはお店の中に入れてくれた。数時間前にお父さん達の雇った探偵との鬼ごっこは一時間に及び私の勝利で終結した。プロなだけあって完全にくのに時間が掛かった。


「こっちだよ」

 お店に入ってキッチンにある扉の奥に通された。扉の先は大型の冷蔵庫や、資材などが置かれていて、奥に続く廊下の先は居住スペースになっていた。

「ここの客間を使って」

「いや、流石にそれは・・・」

「あっ!もしかして布団変わると寝れない?」

「いや、そうゆう訳ではないですけど・・・」

「なら、使って?桜和さん、目の下隈がすごいよ?昨夜はほとんど寝てないんじゃない?」

「それは、・・」

「何があったのかはできれば後で聞かせて欲しいと思うけど、それより先ず君に必要なのは十分な休息だ。今は甘えなさい。それとも先に何か食べるかい?」

「・・いえ、先に休ませてもらいます。ありがとうございます」

「いえいえ!ゆっくり休むんだよ?」

 そうして、心助さんは毛布を貸してくれた後、部屋を出て行った。

 お言葉に甘えて今は有り難く休ませてもらおう。

 横になるとすぐに瞼が重くなってきた。体の力が抜けて私は眠りに落ちた。

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