〜桜和 椿(39)〜

 時刻は二十二時五分。時間ギリギリまでネットカフェで過ごし、夕ご飯と、少し睡眠を取って十分前に店を出た。一週間前までは熱帯夜だったが、今は少し肌寒く感じる。

「さてと、どうしようかな・・・」

 ある程度寝床になりそうな所の目星はつけた。雨風を凌げる場所、高架下、遊具などで休憩、仮眠を取りながら移動し続けるのが警察などに見つからずに夜を明かす方法として一番良いと考えた。危険なことはよく分かっているが今はとにかく家に帰りたくないので、見つからない方法を考えた結果だ。家出をした人を保護してくれるシェルターというものもあるらしいが、それは最終手段だと思っている。しばらく考えても、家に帰りたくなかったらそこに相談をしてみようと思う。

 今の一番気にしなければいけない事は、警察や危ない人に捕まらないことだ。


「よしっとまずは一つ目の公園に向かうか・・・。二十分から三十分ずつ仮眠して移動すれば、場所を特定されずに夜を明かせる・・・。予定・・・。止めてくれる当てがあればよかったんだけどなぁ・・。ハハッ・・」

 本当もう、さっきから笑おうとしても乾いた笑いしか出てこない。家を出た時ほどの苦しさはないが心が整理できたようには感じない。現実逃避に浸っているだけなのかもしれない。それを分かっていても向き合う勇気はない。

「はぁ・・・」

 溜息が夜に溶けて消えていく。人気がなくなった道を一人歩く。この苦しさも夜に溶けてくれないだろうか。



「うわぁ・・。さむっ」

 ネットカフェを出て仮眠を取りつつ移動すること三時間もう何回目かは忘れた仮眠をとっている。今は幼稚園児用の遊具のトンネルの中で寝ていた。制服を掛けて寝ていたけれど寒い。季節が夏だったのが幸いだった。

「さて、次行こう・・」

 日付は超えた。あと三、四時間何とかすれば陽が上り始めるだろう。

「うっわ・・。首鳴った」

 やっぱり布団でない分体が痛い。背中や首が鳴る。ここに来るまでも少し大変だった。寝る予定だった場所に明らかに危なそうな人がいたり、近くに警察が居たりとすでに予定が二、三個狂って若干寝不足だ。そのせいで、気づかなかった。

「あの、桜和椿さんですよね?」

「え」

 横を見たら、知らない女性が私の顔を覗いていた。

 警察、じゃない。危ない人?私の名前を知っている。なんで・・・?両親に聞いたのか・・・!

「私達は君のお父さん達、ゆたかさんたちに雇われた探偵です」

 やっぱりお父さん達が教えたのか・・!連れ戻すために。連れ戻される・・・・。嫌だ!嫌だっ!

「あのさ、一緒に家に帰らない?両親も心配して____________


 嫌だっ!!あの生活に、あの家に!戻りたくないっ!!!

「ちょっと!!椿ちゃん!!」

 私は走り出した。後ろから追いかけてくる足音がするが振り返らずただ、足を動かす事に集中した。

 逃げなきゃ!捕まっちゃダメだっ!また、あそこに戻るのは嫌だっ!

 さっきまで感じていた眠気も疲労も置き去りにして、私は全力で逃走した。

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