〜桜和 椿(38)〜

 自室で机に向かって勉強を始めたが、ここ三十分手が全く動いていない。原因は明白、唯一の友達である桜和さんの事だ。

 学校を早退した彼女のことが心配でなんて言うべきかと考えに考えてやっと送ったメールに返信どころか既読すら付かないことに心配は募るばかりで集中ができない。さっきから五分に一回は携帯を確認している。

「桜和さん・・。大丈夫かなぁ」


 桜和さんが出て行った後の教室は騒然としていた。先生もクラスメイトも突然彼女がいなくなった。という感じだった。だが、理由はどう考えても一つで進路についての話をされたことだろう。桜和さんが進路の話をされるのが嫌な事は知っていたが、あそこまで拒否反応を示すとは私も思わなかった。あの時の彼女はいつもの凛とした姿とは違い、怯えているように見えた。思っていた以上に桜和さんには他人に触れられたくないものがあるのだと知った。それが何なのかが分からないのが歯痒い気持ちになっている。友達なのに私は彼女についてあまりに知らない。それでも力になれる事はないかとメールを送ったが、いまだに既読は付かない。

「明日は来るかな?桜和さん」

 身が入らないままもう一度机に向かう事十分。結局気になって携帯を確認すると既読が付いていた。

「あっ!桜和さん見てくれてる!」

 既読がついたのを確認してからしばらく返信が来ないか画面を見ていたが一向に返信が返ってくる事はなかった。桜和さんは律儀な性格で今までやり取りをしていて返信が返ってこない事はなかった。今日の事を気にして返信しずらいということなのだろうか。それなら別に全然良いし、話たくなった時に言ってくれれば良いと思う。それならいいのだが、胸騒ぎがして仕方ないのは私が心配性なだけだろうか・・?どこまで踏み込んでいいものか、分からない。ここにきて人と関わるの避けてきた弊害が出た。こうゆう時友達に何をしてあげられるのか思いつかない。

 でも、今回は様子を見ているだけではいけない気がする。

「よし!」

 具体的に何かできることは思いつかないがそれでも何か行動に移したくて、桜和さんに電話をかけてみる事にした。何を話せばいいのかは分からないが、勇気を出して行動することが大切だと思うから。それが桜和さんと友達になれた理由だから。


 耳元で鳴るコール音、緊張しているせいか、とても長く感じた。だが、ついぞ出ることは無く電話は切れた。胸騒ぎが強くなった。



「探偵には連絡したけど、見つからないって。広い範囲で捜索してくださるそうよ」

「そうか・・・」

 椿が家を出て行ってしまい、見失ってからすぐに探偵を雇ったが見つかるけられなかった。私達も色んな所をあたってみたが椿の姿はなかった。手がかりも見つからないまま、あっという間に陽が暮れ私達は自宅待機をお願いされた。警察にも連絡したが、しっかりとした捜索はしてくれないらしい。だが、写真を渡してあるのでパトロール中に見つけたら連絡、保護してくれるそうだ。


「写真とかは渡したけど、やっぱり捜索するなら普段から行きそうな場所とか、友人関係について教えて欲しいって言われたわ」

「・・・・。」

「あなた、心当たりある?」

「いや・・・。紫秋しあきは?」

「私も無い・・・」

「そうか・・・」

「本当に椿の事、何も知らないのね・・・」

「親、失格だな・・・」

「あなた・・・」

「小さい頃からよく出来た子で、しっかりしていると思っていた。この子なら大丈夫だって。それに甘えて蔑ろにしていた事に気づいていなかった。椿のあんな顔初めて見た。ずっと抱えていたんだと今になって気づくなんて遅すぎるな・・・」

「私も、あの子に我慢させていたんだなって今日はっきり言われて知ったわ。忙しさを言い訳に向き合ってこなかった。自業自得ね・・・」

「やっぱり椿を探しに出てくる」

「・・私も行く!」

「車の準備してくる」

「私は出る支度してくるわ!あなたの分も!」

「頼む」


 娘を探すため車を準備しようと玄関を出る。家に留まっていることなんて出来ない。

 許されない事は分かっている。今更だって言われるだろう。それでも、今更でも、椿の親でいたいとそう思う。________________________

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る